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Cryptic Writings
Chapter:2

   第3話 長瀬

前回までのあらすじ
 
  柳川は東京に到着した。
  浩之と柳川が顔を合わせ、避けられぬ争いが引き起こされた。

        ―――――――――――――――――――――――
Chapter 3

主な登場人物

長瀬源三郎(長瀬警部)
  再び活躍の場を与えられて、果たしてどれだけ活躍できるのか。
  過去の美少年シリーズ第二弾。

長瀬源五郎(長瀬主任)
  実はロボット工学の権威ではなく、情報工学の権威だということがはっきりした。
  だって『心』の開発者だもん。ロボット工学を専門にやる必要性がないのよ。
  過去の美少年シリーズ第三弾。

        ―――――――――――――――――――――――

 長瀬警部は証拠集めの為に出張した。
 …と、言うことになっている。
 彼は今新幹線に乗り、東京駅へと向かっている。
 弁当を食いながら、東京についてからの行動を考えている。
――…取りあえずは仕事をするにしても
 日帰りではなく一日泊まり。半日がかりの旅程を考えれば当然ではあるのだが…
――今、あいつはどこにいるんだ?
 今回のうんざりするような事件の原因は、不詳の弟の作ったメイドロボのせいだ。
 …とは、思っているわけではないが、彼が何らかの手がかりを持っているのは間違いないだろう。
 少なくとも、未解決に終わっている『人喰い』事件の手がかりぐらいは何とかなるかも知れない。
 彼はそれに加え、阿部貴之の事件が絡んでくるのでは、とも考えていた。
 阿部の肉食獣がまだ生きていて、猟奇的な殺人に…
――そんな訳ないだろう。もしそうなら獣の毛の一本も見つかるはずだし
 何よりそんな目撃情報はない。
 彼はため息をついて目を閉じた。
 まだ時間はある。ゆっくり眠ろう。

 長瀬源五郎は快哉を叫んでいた。
 HMX-13セリオに搭載していたフィルタは、半ば実験的に使用していたもので、気体分子レベルで空気を濾す事ができる。
 これは電磁波を発生させて、電場により分子をより分けるように作った物だ。簡単に言えば静電気で埃をとるような機構だ。
 攻撃衛星『TRIDENT』の攻撃は、レーザーによる事前照準から射撃、衝撃波到達までの時間はほんの3秒しかない。
 綾香の話ではセリオの叫び声のような物を聞いたと言う。
 もしセリオが何かに反応したのだとすれば、フィルタにあれが残っているはずだ。
 その考えは間違っていなかった。ただし、光学顕微鏡ではそれを捉えることはできなかった。
「主任、『培養』に成功しました」
 長瀬はほほぅと嬉しそうに笑う。
「うちの科学技術も捨てた物じゃないね」
 笑いながら彼は電子顕微鏡写真を撮る。
 『Assembler』。
 それは日本語ではこう呼ばれる。『微細機械』、ナノマシンと。
 原子レベルの機械、とでも言おうか。原子一個がスイッチであり、モーターであり、ベアリングである。
 そしてそれらは統合されたある種の動きができるように『群体』としての構成により使用するのが主である。
「月島主任のとこで研究してましたから」
 彼は少し嬉しそうに笑う。
 月島の専門は原子物理学と機械工学だったのだが、いつの間にか研究が原子レベルでの工学主体に切り替わっていた。
 長瀬の、学生時代の友人であった男だ。残念なことに、彼の死体は回収した。もうこの世にはいない。
 瓦礫の調査を行った際に彼らが見つけた物は、セリオであったもの、各種装備品の欠片、そしてマルチの中枢と月島の死体だった。
 だがマルチの身体はどこにもなかった。
 瓦礫の下敷きになっているかと思い確認したが、それはなかった。
 綾香の証言ではマルチとは思えない行動をして立ち去ったということだったが。
――…しかし…
 彼が見つけたAssemblerはそれぞれが微弱な電磁波を発するように仕込まれているが、それはほんの僅かな物だ。
 確かにこれを空気中に散布すればそれなりに電波妨害等の効果はあるだろう。
 しかし、他に何か効果があるかも知れない。一つだけを見たところでそれ以上の物は分からなかった。
「気を付けろよ、こいつらを制御する技術は今の我々にはないのだから」
「わかってますよ」
 これらは機械である。
 が、同時に『生命体』に近い存在である。もし自らを増殖するプログラムを用意されていたならば、数時間もしないうちに地球全部を自らに変えてしまう事もできるのだ。
――月島のことだ…それなりに作っているんだろうが…
 彼は試験管を持ち上げて、透明な溶液のように見えるそれを見つめた。
「でも、何で月島主任は来栖川を抜けたんです?別にこの技術その物は…」
 長瀬は首を振った。
「奴には関係ないんだ。…そう言う奴だった」
 試験管を資料と一緒に並べると長瀬は椅子を引き出して座る。
「それに来栖川は結果のでないような研究に金を出すほど暇ではないからな」
 アセンブラを通常の技術に応用するのは非常に難しい。精々コンピュータに使用するぐらいである。
――マルチの筐体に…何の意味があるというのだ?
 長瀬は黙り込んで顎を撫でる。こんな表情をするときは決まって難しい事を考えている。
 できたものでこんな時には誰も彼に話しかけない。
 ゆっくり彼の中の時間が過ぎていく。
「…松浦くん、少しいいかい?」
 彼は長瀬のプログラムを最終的にデバッグしたサブプログラマで、最もその腕を信頼されていると言っても過言ではない。
「はい?」
「ちょっと、今から言うアルゴリズムを方程式化してシュミレートできないかね?」
 ごく、と彼は唾を呑んだ。
 大抵こうやって前置きする場合はろくでもない事である。
 大した事のない事なら何も言わずに即実行させるのが常なのだ。
「主任。また僕を虐める気ですね」
「え?」
 そして、長瀬はそれを悪気があって言っているわけではなかった。
 だから尚、たちが悪いのかも知れない。
「何日かかっても知りませんよ!今度僕が胃潰瘍になって倒れたら主任、ちゃんとお見舞いに来て下さいね!」
 若干たじたじ。
「わかったから。わかったよ、俺ってそんなにひどいやつ?」
 無言でその場にいた全員に睨まれる奴。
 長瀬はふうとため息をついて肩をすくめた。
 

「長瀬警部、到着しました」
 まずは署長に挨拶からだ。と言っても、今日中に事が終わらなければ少し忙しいことになるのだが…
「うむ、御苦労」
 指名手配の柳川祐也は警部補であり、直属の上司は長瀬警部ということになり、責任問題の件もあり、彼が動くのは至極当然の話である。
「しかしわざわざ隆山からここまで。一言連絡を入れてさえくれればFAXだってできるだろうに」
 そう、以前の事件の資料も総て隆山で直接FAXで受け取っていたはずだ。
「はっはっはは、ま、上の人間には何とでも勘ぐられて結構ですが、署長」
 長瀬は勧められるまま椅子に座ると、身を乗り出すような格好で言う。
「私の信念と致しまして、『捜査は総て自分の足で稼ぐ物だ』と常々考えております故に」
 上の人間とは、要するに予算を出している大元締めの事だ。
 予算を使った個人的な旅行じゃないか?と勘ぐられてもおかしくないだろう、という含みである。
 署長はくたびれた笑みを見せる。
 元々、その言葉で長瀬を叱咤したのは彼なのだから。
「…変わらないね、君は。もう少し丸くなったかと思ったのに」
 長瀬は悪戯好きな笑みを浮かべて煙草を出す。
「いえいえ、署長だからこそこういうんですよ」
 そして箱を署長の方に向ける。無言でそれを受け取りながら署長は笑う
「だったらその『署長』ってのも止めてくれないか?なぁ、長瀬」
 彼の煙草に火を付けながら、長瀬はにたりと口元を歪めた。
「…ま、そう言うわけにもいきませんよ。やっぱり今はこうして身分も違うんですし、先輩との関係は変わらないじゃないですか」
 署長は長瀬とコンビを組んでいた事のある、直の先輩である。
 彼の名前は岡崎正毅。いわば柳川から見る長瀬、という所だろう。
 大学出のノンキャリアで、ここまで来るのに相当の苦労があったと思われる。まず持って普通はあり得ない。
「同期から見れば出世頭なんじゃないですか」
 彼はすこし苦笑して煙を胸に吸い込む。
「そうかも知れんがな。久々に会った後輩に虐められるとは思っていなかったぞ」
 ははは、と無遠慮に笑うと、長瀬は顔を引き締めた。
「…早速ですが」
 署長は頷いて茶色のA4版の封筒を差し出した。
「関係書類は総てこの中にある。鬼塚の異動書と、写真もな。…どうやら総て偽造らしいが」
 言われるまま長瀬は封筒を受け取り、書類を出した。
 鬼塚。
 この名前の警部補は確かに存在する。但し、既に死亡しているが。
――!
 長瀬の顔が引きつる。写真に映っているのは紛れもなく彼の良く知っている柳川だ。
「確認したかい?」
「署長…」
 驚きを隠さずに書類から顔を上げた長瀬を、彼は苦渋をなめたような表情で見下ろしていた。
「直接本人に会ったのは私だけではないがね。妙な点があるとすれば、ここまであからさまに顔を出していることぐらいだが」
「他人のそら似にしては確かに似すぎています。…しかしこの日のこの時間には彼は隆山で私と仕事をしていますよ?」
 ふむう、と大きく煙を吐いて、彼は煙草を灰皿に突き立てた。
「…なぜ、急に彼を緊急に保護しようとしたか、聞きたそうな顔だ」
 長瀬は応えに窮して声を詰まらせる。岡崎はくっくっくと笑って椅子に背を預ける。
「確かに急かも知れないな。…いや、俺がお前の立場だったら、お前を逮捕することに若干でも悩むだろうかね?」
「ちょ、…あまりからかわないで下さいよ、署長」
 岡崎は最初の仕返しができた、と少しばかり上機嫌に笑みを浮かべ、椅子から身体を起こした。
「すまんな。確かに容疑の固まっていない人間を捕まえるのは困難だが、状況的にあからさまに犯人だろう」
 鬼塚が死体で発見されるのは、『彼』が別人であると分かった直後の事である。
 鬼塚の足取りを掴んだ所で、彼は抹消されていた。
 まるでミキサーにかけられたようなぐしゃぐしゃの肉塊として。
「鬼塚の遺体は完全に隠蔽されていたし、柳川の容疑は取り下げようはない」
 そして、岡崎は口を閉じ、僅かに顔を緊張させた。
「部内の人間だと言うことで、若干手が早かったかも知れないが」
「そんな、証拠不十分での逮捕は、不法逮捕罪になるじゃないですか!」
「だから重要参考人として緊急に保護しようとしているんだ」
 こんな時に、官僚という物は便利な言葉を創る。
 彼は鉄面皮のような硬い表情を作ると言う。
「勿論、柳川に双子の兄弟がいれば別だが…」
 刑事の身分は、その家系を確認される。
 少なくとも、柳川にはそんな兄弟などいない。
「…確かに。いや、失礼しました。それを確認するのが仕事ですしね」
 岡崎は少し顔を緩めて、椅子から立ち上がる。
「証拠物件は取りあえずそれだけだ。今日はこれで終わりだろう?どうだ、久々に飲みにでもいかないか」
 長瀬は封筒を畳んで鞄に入れると、すまなさそうに苦笑いを浮かべる。
「いやー、少し挨拶をしておきたい所があるのでそうもいかないんですよ。すみません」
 その後しばらく私的な会話をして、彼は署をでた。
 久々の東京。もう傾き始めた日を見ながら、彼は首をこきこき鳴らせる。
――源五郎、連絡とれるだろうか
 彼は少々強引な手段に出る事にした。
 要するに、職場になぐり込みである。公務員の横暴。仕事が終われば自由時間。
 なんぼでも働いて、働いた数だけ給料と信用に繋がる企業とは訳が違う。
 以前から電話連絡を入れているのだが、携帯電話を持っていない弟には精々留守電が入れられる程度で、それもまともに聞いているのかどうか。
 もう随分前になるが、『研究所に泊まり込む事もしばしば』だと言っていた。
 来栖川総合研究所。ドーム状の天井に、妙にとんがったものが幾つかくっついた研究施設は非常に前衛的である。
 これをもし芸術と介するならば、だ。普通は『金持ってるな』という感想が出てくるだろう。
 ここのHM研究室に弟がいる。
 背広を着込んだまま、彼は何の気なしに入り口をくぐった。
「いら…長瀬主任」
 入り口にいた受付の女性が口に手を当てて目を真ん丸くする。
「何て格好、いいえ、背広なんか着てどうしたんですか?」
 長瀬は苦笑して、懐から警察手帳を出す。
「自分はその主任の兄でしてね。…そんなにウチの奴は突飛ですかね」
 自分の写真を見せて、にっと笑う。すると彼女はぺこりと頭を下げる。
「し、失礼しました」
「いや、それよりも是非面会したいんだが」
 こんな時警察手帳は非常に役に立つ。
 私的な用事で来たにもかかわらず、彼女は弟に連絡を入れるとすぐにこちらを向いた。
「そちらのロビーで待っていて下さい。すぐに参ります」
「そうさせて貰うよ、ああ、煙草は?」
「…禁煙です」
 すげなく言われて彼は肩をすくめた。 
 

 松浦がプログラムを作っているうちに、長瀬は『Hephaestus』について調べていた。
――火と金属の神
――鍛冶の神
 ギリシャ神話では、ヘラがゼウスに腹を立てて産み落としたとされる。
 かなり異質な神である。後にゼウスが妻としてアフロディテをめとらせるのだが、彼女は夫に対して不貞の妻であった。
 そして、その鍛冶の技能は神々の中でも随一という。
――世界最大の軍産共同体…
 その神、ゼウスにとって最大の武器職人である神の名を取った、死の商人の組織。
 それが『Hephaestus』だった。
 基本的に自ら表舞台に出るような真似はしないし、積極的に武器を売り込むことはない。
 だが、全世界の兵器を買い込み、その性能を確認し、そして『改良』するその技術力と財力は世界でも随一である。
 さらに、それら各国の新兵器と自ら開発する『新兵器』は、公式に取引はされないが確実に世界市場に出回っている。
 彼がアクセスしているのはそう言った兵器のバイヤーのネットではない。
 インターネット経由の『政府高官専用』のサイトである。
 実は、逆にこういうあからさまなネットに置いている方が疑われなくてすむのである。
『新商品の紹介』
 彼はごく簡単にクリックした。
『XX年以降販売予定の商品』
 そこには意味不明の文字の羅列だけが並んでいる。
 実は、インターネットだけではここまでしか情報は分からないようになっている。
 通常のブラウザで確認しようにも、詳しいことはここにはほとんど表示されないのである。
 このページが何のページであるか知っていて、専用のプラグインとアダプタによってデコードする作業を必要とする。
 一種のPGPメールの様なものだ。
 問題はそこだ。
 ソフトウェアの互換の問題があり、ここに引いているUNIXでは残念ながら動かなかったのだ。
 月島が、WINDOWSを使用していたためである。
  一応助手の何人かはノートパソコンも持ち込んでいる。が、取りあえず月島のデータベースからの情報ではここまでが精一杯のようだった。
――更新日時は昨日の真夜中…確実に更新されているな
 一応、彼はページをダウンロードしておくことにした。通常PGPでは解読にかかる年数が凄まじい物になるために解読できないとされているのだが。
――…ノートパソコンを貸して貰うことにするか…
「…主任?」
 松浦が声を上げた。
「このルーチンなんですけど…」

  プルルルルル

「はい?…はい、しゅにーん、ロビーまで呼び出し」
 松浦と長瀬は同時に眉を顰めて、インターホンを取った人間を睨み付ける。
「ちょ、僕が悪いんじゃないですよぉ」
「…分かった、すぐ行くって応えてくれ」
 松浦と二三話をして若干の修正を加えてから彼は白衣を翻した。
「しばらくかかる?」
「そうですね。帰ってくるまでに何とか形にはできそうですけど」
「ほ、早いね。じゃ、もう頭ン中には形があるんだ」
「ええ」
 松浦は一瞬ディスプレイから目を外し、人の良い笑みを見せた。
「胃潰瘍にならずにすみそうですよ」
 長瀬は苦笑して研究室を出た。
――ロビーまで呼び出しとは。今度はみんなの前で恥でもかかせる気か?
 ぶつぶつ言いながら廊下を歩く。
 この研究所は非常によく考えられており、細長い形の本館の裏に倉庫と僅かながら緑の庭がある。
 大きなガラス戸から差し込むさんさんとした日の光に、彼は目を細めた。
――今度は一体何なんだ…
 ロビーには幾つかソファが置いてあり、広々とした空間にはやはり植木が置いている。
 そして、彼の思っても見ない人物が待ちかまえていた。
「よう」
「ぁああ?兄貴?」
 そして、同時に胸の中ではたと手を打つ。
 会長との話はかなり機密情報が多く、人の出入りが少ないとは言えこんな場所では話すことはない。
 考えてみれば、前回もわざわざ研究室の隣にある休憩室にまで顔を出していた。
「どうしたんだ、わざわざこんなところにまで」
「連絡できるぐらいならとっくに連絡してたよ。お前、最近働きづめなんじゃないか?」
 源五郎はくたびれた笑みを浮かべて彼の前に座る。
「…まあな。お前んとこだから知ってるだろ?あれ以来ちょっと事件続きでな」
 そう言いながら彼はコーヒーを頼む。
「それで、何の用だ?わざわざ隆山くんだりから来るんだからそれなりの用事だろう?」
 彼はぽりぽりと頬を掻いて、少しだけ困った表情を見せた。
「実はその事件の件なんだが」
 あれ以来一切手がかりの方がつかめていない。
 何メイドロボの方で情報がないか、と思って顔をだしたのだ。
「…あの後、後輩が殺人の容疑をかけられてな。こっちに出てきたのは証拠集めだよ」
 源五郎は腕を組んでふむと頷く。
「言っていいものかどうか分からないから、兄貴の心だけに止めておいてくれ」
 フレームのロットから、どうやら以前ここで研究していた人間が犯人だと言うこと。
 彼が最近、ひと騒動を起こした事。そして、その時に町中に『化物』が出たこと。
「そして、恐らく関係あるかも知れないからいうが、『刑事』に変装した男がいたらしい」
 言ってから彼は付け加えた。
「ただし、これも確かな話ではないからな。兄貴と俺は話しているんだから」
 大きく頷いて源三郎はポケットに手を入れる。
「ここは禁煙だよ、兄貴」
 う、と困った表情を浮かべると情けない視線を自分の弟に向ける。
「…分かったよ」
 渋々彼は背広から手を出して、手持ちぶさたな手を自分の顎に当てる。
「そうか…で、その研究員、捕まえたのか?」
 彼は首を振った。
「相当の騒ぎだったがな、どの情報源にも事件については「大規模の落雷」事故になっていた」
 受付の女性がコーヒーを二つ彼らの前に置く。
 源五郎は手を挙げて礼を言うと、早速口を付ける。
「飲めよ、インスタントじゃないからさ」
 研究室内ではインスタントである。
「来栖川がもみ消した…ってのはあり得ないか」
 砂糖とクリームを入れてかき混ぜながら聞く。
「そこまでの力はないだろう。…研究員だった俺のライバルも死んでしまったし、これもお蔵入りって事か」
 そう言って肩をすくめてみせる。
 源三郎は少し頭の中で情報を整理してみることにした。
 しばらくの沈黙。源五郎はコーヒーをすすって彼の様子を見ていた。
――兄弟だからなぁ
 こんな風に考え込む癖は、彼ら兄弟に共通する点がある。
「…兄貴、実は少し頼みがあるんだが…」
 それを無理に中断させて、弟は兄に向かって言った。

 次回予告

  姿を現した『鬼塚』。
  「間抜けな話だ」
  清算されない想いと、正しさを探す男。
  差し伸べられたその手は、救いの手だったのだろうか。
  
  Cryptic Writings Chapter 3:Out ta get me 第4話『柳川』

   言うことを聞いてくれるなら、殺したりしない

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