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りみっとぶれいかーず!――Road to the Circuit――

Case:1 隆山 〜乃野坂峠〜 第13話:終焉


車で走るって事は別に簡単な事さ。でも、それが一人の人間だけで出来上がってると思っちゃいけない


 駐車場に入って、EGをEK9の隣に滑り込ませる。
「どうだい?」
 エンジンをかけたまま、助手席の浩之に声を投げかけてみる。
 浩之は寝ぼけたような薄笑いを浮かべて、小さく頷く。
「ああ、なかなかのもんだ。まだまだ下手くそだけどな」
 そう言ってドアを開けると、冷たい夜の空気がさぁっと流れ込んでくる。
 室内はエンジンの熱がこもって、かなり暑くなっていた。
「ボンネットを開けろ、ラジエターがノーマルだからエンジンも切るなよ。しばらく回して冷やせ」
 言われるままに右手をハンドルから外して奥へと伸ばす。
 ロックに指をかけ、かちんと金属音が鳴ってボンネットが僅かに浮き上がる。
 助手席から転がるように出た浩之は、ボンネットをさっさと開けてエンジンのクーリングに入る。
「峠でもどこでも、エンジンをぶんまわしたら同じだ。とりあえず回転を止めずに回しながら冷やしてやることだ」
 いきなり停止させるのは、喩えN/Aエンジンだとしても良くない。
 これは常識――少なくとも走った後の車にとっては。
 手際よくボンネットを開いた浩之は、コクピット側へと向かう。
 梓も車から降りながら、汗一つ書いていない顔でにやりと笑みを作る。
「これはあたしの車だろ?」
「認めるよ。悪かったってさ」
 1.6リッターとは思えない低音をくぐもらせるエグゾーストノートに、彼女の不敵な顔はよく似合う。
 浩之は思わず苦笑して大きく肩をすくめて見せると、同じように低音を響かせる車に顔を向けた。
 ZZは不機嫌そうに鈍い低音を響かせて、EK9の隣に滑り込んで停車した。
 そして、EK9の向こう側からゆっくり二人に近づいてくる。
「凄い突っ込みでしたね。コーナリングでどうしても勝てませんでした」
 正直な感想、そう聞こえるが、実際口調はそれを認められない悔しさが滲んでいる。
「そりゃ」
 浩之は眠たそうな顔で、両手をポケットに突っ込んで口元を歪める。
「そうさ。シティターボあたりから、散々走る為だけのFFの開発に腐心した結果さ。こいつでほぼ完成型と言うべきだろう」
 浩之はくい、とEG6を肘で差す。
「FFはどうしてもフロントヘビーになる。コーナーを早くするためにはホイールベースを短くしたり、リアを巻き込む設定にする」
 インテグラはまさにそうだと言い、視線を車に向ける。
 ボンネットを開いたEG6。
「フロントタイヤが最初の足から既にトーインになっているから、リアがしっかり粘ってもきちんと回頭する」
 無理矢理車を滑らして回す設定ではない。
 ぺたりと、グリップの限界まで粘って走る為の車なのだ。
「機械式LSDを入れてもキックバックの感じ方が少ない油圧パワステの御陰もあるだろうけどな、ハンドルがFFの癖に軽い」
 ちらり、と梓を見る。
 む、と顔を変えて彼を睨み付ける。
「女の子だけに無理な力を加えないだろうし、トランスミッションの扱いも乱暴じゃなかった。FFでグリップ走行するには向いてる」
 そして蛇足だが、と彼は両車を眺めると、それぞれのホイールを指さした。
「こっちのシビックは足回りはすべてアルミ製だ。ホイールも軽量だし、交換した足だって純正型だがアルミ製になってる」
「それって」
 梓が驚いた声を上げると、浩之は笑って答える。
「俺が手持ちの、EG6用純正ってもうなかったんで、純正形状のラリー用を突っ込んだんだよ」
 その前についてたオーリンズのショックは売り払ったよ、と笑うと祐介に向き直って、彼の顔を見た。
 変化はなかった。
 しかし、心なしか顔色が明るい気がした。
「そうですか。……総重量では間違いなく勝ってると思ったんですけど」
「FRPには勝てないけどな。ZZって言ったら完全なハンドメイド・マシンだろ。レースカーって言ったって過言じゃないし、条件が悪かったのも重なってる」
 この先行後追いであれば、たとえば後ろの車が若干速かったとしよう。
 その差が、タイムではなく距離として車両1台分だったとしたら?
 どう頑張っても、先行する1台を抜けるはずがない、良くて並んで走って同時ゴールだ。
「多分普通にタイムアタックをしたのであればお前の勝ちだ。そう言う車だろう?」
「……慰めてくれてるんですか?」
 祐介の顔に皮肉ったような笑みが湛えられた。
「いや。現実を直視させてるんだ。全力で逃げる先行車を追い抜くには、この程度の差では無理だと言ってるんだ」
 まして。
「どれだけ加速したって、前の車が邪魔で、対向車線にでればコーナリングが狭まる。バトルってのはそう言うものだろう」
 祐介は流石に嫌な顔をすると、ふっと笑みを浮かべてため息を付いた。
「もう少し巧く操れるようにならないと、そのシビアなコーナリングで勝てるはずはないって事ですね」
 そして、梓の方を向いて、彼は彼女に手が届く位置まで前進して、すっと手を出した。
「非常に巧かったですよ。先輩共々、失礼しました。そして今後もよろしく」
 梓は驚いて目を丸くして、それでも怖ず怖ずと彼に手を伸ばして軽く握手を返す。
「そんな。でも次も負けないからね」
「望むところです。尤も、次も同じ車とは限りませんよ」
 くすくす、と笑って祐介は手を離した。
「あたしも次は車が代わってるかもね」
「いや、そう言う意味じゃなくて」
 ぽりぽりと空いた手で頬をかいて、ぷいっと視線を逸らせる。
「その。……今度、先輩を含めて、また走って欲しいなって」
 何故か少し頬を赤らめて、落ち着かない感じに答える祐介。
 先刻までの尖った感じから、最初に頭を下げてきた時の少年相応の雰囲気をかもして。
「僕は『雫』ってチームで走ってるんですよ。丁度同い年の女の子もいますよ」
 ははっと笑うと、ZZに駆け戻る。
「多分先輩は目の敵にしますけどね。ホンダが嫌いらしいから」
「え、えっと」
 二人の様子を声を出さずに笑って眺めると、浩之は自分の車に戻ってエンジンをかけた。
 ハザードの側にかけた携帯がぺかぺか明滅しているのを見て、口元を歪めると無言で車を前進させた。
「じゃあ、悪いな。俺は帰るぞ。どうせこの辺はうろうろしてるから、また会ったらよろしくな」
「あ、ああ、今度は気を付けるから」
 慌てて答える梓に、にっと笑みを浮かべて右手を挙げて答える浩之。
 バックして既に出口に向かうZZ。
 緊張した空気はかき消え、爆音も一気に遠ざかっていき――峠本来の静けさを取り戻す。
 取り残された梓もため息を付いて、自分の車のコクピットに体を滑り込ませた。
「『チーム』か」
 今日は楽しかった。一人で走っているのとはまた違う、奇妙な連帯感のような楽しさがあった。
 久々に笑った気がした。

 

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解説


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