×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

戻る

Cryptic Writings 
Chapter:END

『End of THE NIGHTMARE』



「見つけたのか?」

 それは今にも目を疑う光景だった。
 東京のビル街の一角。
 普通にはあり得ない――まずもってみることのない風景がそこにはあった。
 通称バビロンと呼ばれるビルの中央より少し上。
 まるで陳腐なコンピュータグラフィクスのような、丸い半透明の存在が膨れあがる。

  ぱきぱきぱき

 細かな放電が走り、耳ざわりなヒスノイズが空気中を直接伝搬する。
 その光景は、丁度翼を広げる鳥のようで。
 また、ゆっくりと開かれる地獄の釜の蓋のようで。
 そしてそれは――間違いなくとてつもなく危険な代物だった。

 異常な光景なのに、それを見た瞬間耕一の身体が震える。
 本能的な畏怖。
 それにも似たこれは――恐怖。
 そして、一種の驚き。
「天使の翼…の、ようだ」


「現在開発が進められている対『Lycanthrope』用調整剤ではここまでの効果はありません」
 研究発表会。
 Hephaestusの主要メンバーが一堂に会する場所で、それは行われていた。
 次期新兵器として採用されるに足る研究を行っているかどうか、それを品評するものだ。
 白衣を着た男は壇上でパソコンと向かいながら、マイクを握っている。
「…成程、だがそれとて制御が可能なのかね?」
 彼の前にある席には、偉そうな人物が何人も座っている。
 その中の一人で、小太りの顔に皺を刻んだ男は不機嫌そうに呟いた。
 彼は特殊部隊『Lycanthrope』を一手に任された指揮官である。
 『Lycanthrope』の中で唯一Lycanthropeではない、ただの人間。
 ただそれも、今ではただの閑職であり、名目だけなのだ。
 発表している白衣の――月島光三博士は口元だけを歪める。
「さぁ?現段階では外部からの電磁的刺激により操作できるようにはしておりますが…」
 彼は手元のリモコンを僅かに操作する。
 彼の後ろで映し出されていた映像が切り替わり、単純なCG画面になった。
「このナノマシンは自己位置評定のためのある特定の電波を出しています」
 画面に原子構造と僅かな仕組みが映り、それがリアルタイムに動きながら数を増やしていく。
「それを入れ替える事で効果範囲を移動させたり、また電波を強化・シャットダウンすることも可能です」
 さらに膨大な数が画面上に現れ、ズームアウトしていく。
「…これはシュミレーションですが」
 ズームアウトしても、まるで追いかけるように体積を増やしていくナノマシン。
 もうその液体のように揺らめく総体を画面に映すのみである。
 やがて画面が急停止する。
「現段階で、『臨界密度』です。このナノマシンは、設計上増殖能力があり…」
 再び画面が動き出した時、突如膨らむようにして半透明のほぼ球状のものが現れる。
「臨界状態の密度のナノマシンは、まるで食欲を去勢されたラッツのように」
 画面上には虹色に揺らめきながら時折揺らめく『輪』が映し出されている。
「自分の周囲を一気に食い荒らし、このような電磁波の干渉面を発生させます。
臨界状態時での体積によりこの波面はおおよそ比例し、この半径に含まれる全てのものは…」


  どくん

 先刻指先に走った異常。
 それが、同時に身体の各所で発生する。
 先程と違うのは、同時にエラーメッセージが直接帰ってきたことだ。
 さらにその原因を特定することはできない。
 電磁波――そう、ならば電波の発生源は『Lycanthrope』しか考えられない。

 人間の言葉で言うのであればそれは『予感』。
「?気を」
 だがその言葉を発するのは遅すぎた。
 直後に襲う全身の軋み。
 フレーム同士がくっついて激痛が――いや、『痛み』を示す信号が流されて帰ってくる。
 彼女に。
 同時にその痛みもかすれ、時には全く違う信号になる。
 自分の思考能力も一気に奪われる。
 意味不明の命令の羅列がノイマンチップから流されてくる。
 疑似ニューロンは電磁界面を中和するように――そう、勝手に反応する。
 文字通りの意識は今の彼女には保てるものではなかった。

  …ディフェ…っっ


 そこは大破したビルの1F。
 埃臭い部屋。
 身体を起こすと、まだ各所でエラーを返してくる。
 アクチュエータも関節も、センサーもまともに動かない。
 ただもうHaloの影響は少ないらしい。
 意識が、できる。

  ざ  ざざ ざ

 不規則に視界が乱れる。
 正常な視界がいつまで経っても認識できない。
 それだけじゃない。
――…娘達が
 連絡が取れない。
 セリオ型も。
 マルチ型も。
 どの娘達とも連絡は取れない。
 つながって――いない。
 完全な闇。
 全く接続のない状態というのは初めてだった。
 こんな経験は、今までになかった。
「た…すけ…て」

 かろうじて声が出た。
 まるで自分の物ではないような声。
 力のない、かすれた弱々しい声。
 少女そのものの、声。
 やがて彼女は再び目を閉じた。

 記憶の中に漂う言葉。
 言葉。
 言葉。
 少し気になって、ログを追いかけてみる。
 一番新しい、他人の言葉。

『エディフェル』

 自己増殖するデータベースにアクセスしたが、どこからもその単語を拾うことはできなかった。
 誰の言葉なのかは判らない。だが、それが『固有名詞』らしい事は気がついた。
 自分に向けられたものだろうか?
 …いや、まだ自分には名前はない。

「だから、この娘は人間なんかじゃないんだって!」
 誰かの声で、センサーが再び活性化する。
 オートレジュームモードから開放された無機脳が一斉に情報を駆逐し始める。
 そして――光が現れる。
 脳はナノマシン自身が電力を持つため、補助ノイマンチップにも電池は必要ない。
――センサーがレジュームしている?
 そう言えば昨日から充電していない。
 もう少しで動けなくなるだろう。
「ほら、腕だって」
 誰かが充電用スロットを開こうとして触れる。
「さわるな!」
 叫んで起きあがろうとする。
 が、力無く腕をふりほどくのが限度だった。
 実際には声も出なかった。

  ぐら

 そして、バランスを崩してベッドから転がる。
「マルチっ」
 が、身体が叩きつけられる前に腕が横から伸びてくる。
――五月蠅い、その名で呼ぶな
 だが、逆らおうにも身体に力は入らない。
「電池が切れかけてるんだ、マルチのメンテ用のコンピュータを貸してくれ!」
――…一体…誰なんだ、このおせっかいな奴は
 くすぐったい感触がしてスリットを滑らせたのが判った。
 過電圧時の安全機構が働き、ボディのセンサがシャットダウンする。
 本来のマルチであれば、ここでCPUが記憶整理モードに入るのだが、彼女は違う。
 堅い外殻に包まれる頭脳の中には灰白色の流動体が収められている。
 そう、血の抜けた脳と全く同じ色だ。
 成分――原子レベルでの話だが――が似通っているせいだろうか?
 だが周囲のセンサーからの電気信号を受ける事により『組織』を形成し、それを記憶する為に内部から信号を発生させる事もある。
 『発電』というと大袈裟だが、人間の脳も微少な電気によって動作しているのだ。
 体内にあるバッテリーからの電圧を感知し、残量がモニタされる。

  『聴覚チェック…OK、開放』

「しかし良く見つけたよね、浩之」
「当たり前だろ?これでも鼻は良いんだ」

 聞き覚えがある。
 一人はまだ『博士』の記憶をもらっていない頃に。
 もう一人は、そう、逃亡する直前に。
――まだ生きていたのか
 TRYDENTの直撃を受けなかったのだろう。

「なんてね、先輩の魔法で探してもらったんだ。まぁ、条件が曖昧だったけどさ」

――…どうにか隙を見つけて…
 早く逃げなければ。
 少なくとも、ここにいる二人は冒されていないようだ。
 それに…以前の事もある。既にある程度の耐性はできているだろう。

「ふーん、でも前のマルチちゃんの方が可愛かったのにね」
「髪も切っちまってるし、妙な色に染めて…何がしたかったんだろうな」

――何が…したい?

 彼女は妙にその言葉が引っかかった。
 すぐにセンサーを切り、バッテリ残量をモニタしながら自閉症モードに入る。

――私は…何がしたいんだろうか…

――何故、こうして生まれてきたんだろうか…

――どうして、考える事ができるんだろうか?

 自分には名前はない。
 商品ではないので、番号もない。
 ただ、博士が、親がつけてくれなかっただけだ。
 ずっと研究対象に過ぎなかったから。
 ただの過程だったから、この筐体に埋め込むことも想定されていなかったから…
 いや。

――…復讐



 光三が『Lycanthrope』の研究していた時、ニューロプログラムの開発の必要性を感じた。
 要するに、彼らをコントロールするために脳を『リプログラム』するのだ。
 洗脳のようないい加減なものではなく、命令を書き込んでしまう方法である。
 これは彼の専門分野――ロボット工学を十分発揮できるはずだった。

 元はと言えば所属が決まった時、まだ先駆していた『ナノマシン』の技術に目を付けた事だろう。
 少なくとも50年は先の技術を、何故か彼らは有していた。
――これだ
 彼はあっという間にそれを応用するだけの知識と経験を得ることができた。
――これこそ、我が理想だ
 量子レベルでの物理学を十分に理解していなければ組み立てることはできない。
 微細機械はこの『原子の挙動』を利用して組み立てる事により『プログラム』されていく。
 すなわち、組み立てられた時には既に『作成者の意図通り動作する』ものになるのだ。
 他に電源もいらなければ、補給するものもない。
 熱源があれば――そう、原子が動くことができる1K以上の熱があれば――動作するのだ。

 だが簡単にはいかなかった。
 彼の理論は決してナノマシンには遠くなかったとは言っても、技術的に格差がありすぎた。
 さらに研究の途中で来栖川重工兵器開発部にカバーで就職したのが彼にとって失敗だった。
 社内での軋轢で無用な心労を重ね、いつの間にか身体を壊し、精神を病むようになり。
 そして。



  『充電完了』

 全センサーが一度に回復する。
 簡単な作動音を立てて、CCDのチェックが始まる。
――周囲に『人間』はいない
 何の物音もしない。
 彼女はゆっくりと目を開いた。
――病院?
 無機質で金属製の戸棚が並んだ部屋。
 小さいが、あちこちに置かれた医療器具を見れば簡単な外科手術ぐらいできそうだ。
 データベースを探らなくてもバッファリングされた記憶で十分理解できる。
 彼女は側にある窓から外を覗いてみた。
 1F。逃げようと思えばいくらでも逃げることができる。

  きし

 動こうとして、まだ右腕にメンテ用コンピュータがつながっているのに気がついた。
 コネクタに触れて丁寧にそれを取り外す。
――……
 だが、彼女はそれ以上動く気になれなかった。
 先刻まで『逃げなければ』と思っていたのに。
 まるで惚けたようにスリットを開いたまま、ベッドに座り込んでいた。
――どうして、私は…
 まだ通信は回復していない。
 Haloの影響で恐らくどの無線も通じないだろう。
 簡単な構造をした電話線ぐらいなら通信できるかも知れないが、交換機がだめなら繋がらないだろう。
――私は『私』なのだ。月島光三ではないんだ
 今、彼女は完全に一人だった。
 まるで猫の子が、側を通る人の足音に驚くように。
 とん、と軽い音を立ててベッドの上から窓へ向けて跳躍する。
 廊下からの足音が部屋に到達する前に彼女は病院の外に向けて走りだした。
 あちこちが磁化していて思うように動かない。
 引きつるようにぎくしゃくと外へ向かっていた。

  ざり ざりざりざり

 時折濃度の高い電波を彼女は拾い上げて、ノイズを聞く。
 Haloを起こしたせいで、ナノマシンが大量に散布されている。
――こんな旧式…
 呼吸を続けたところでそれ程の濃度ではないから効果はないが、コンピュータは十分エラーを発生させる。
 波長、周波数、距離、方向は無茶苦茶で、完全に中和するのは彼女とて不可能だ。
 それでも彼女は回線を開きっぱなしにして、『それ』を追っていた。
――ユウ
 彼の身体には、彼女の脳と同じ物が入っている。
 彼の位置も、手も足も内臓も、全身各部の筋肉も彼女の『意のまま』だ。
 擬似的に感覚も共有できる。
――…どこ、今、どこに、いるんだ?
 娘達の目も使えず。
 自分のレーダーになるナノマシンに邪魔をされて。

 彼女は、彼の名前を叫んだ。


「人間はなんと不完全なんだ」
 自分が作っているナノマシンは完璧ではないか。
 これを越えるものなど、この世には存在しないだろう。
 原子を、そのものを消し去る事ができない限り。
「同じたった数ナノの分子からなる人間が、何故このように不完全なのだ」
 ならば完全にすればいいのだ。
 完全であれば、もう求めるものもないのではないか?
 一つだけ確証があった。
 脳細胞の構造を模してナノマシンを構成することだ。
 既に『全くそっくりな脳幹』をナノマシンで構成したことだってあるのだ。
 決して衰えることもなく、失われることもない『人工無機脳』。
 今度は、それをナノマシン技術のみで――脳と全く同じ働きをするものを作り上げるのだ。
 それは不確定性理論により裏打ちされ、人間の脳と同じ構造をおよそ半分以下で構築することができた。
――そうとも
 生命体のように外部の刺激に対し変化、脈動を続ける一個の群体。
 これに特殊なプログラムを用意さえすればいい。
 脳を再構築するのと同じ手段を投じて、ナノマシンの脳を作れば良いではないか。
 そして、生命のサイクルを続けるこの身体を捨てれば完璧だ。
 あんな不完全な物共など、全て滅ぼしてやる。
 全て!全て!!全て!!!全て!!!!!
「…ふむ、そうか、良いことを思いついたな」
 彼の目は、ネットワークに注がれた。



 突然回線が開いた。
 ナノマシンの霞はその寿命が尽きたのか、不完全な形で漂っていたのか。
 ともかく彼女が開きっぱなしにしていた回線にいくつもの情報が雪崩れ込んでくる。
――…っ!
 ユウは戦いの真っ最中にいた。
 『痛み』を示す信号は彼を貫いた。
 その時、間違いなく全身が震えた。
 心拍低下、ナノマシン欠損量62%、出血多量。
――この向こう側
 粉臭いビルの影。
 僅かに開けた摩天楼の谷間。
 そこに、一つの荒野があった。
 銃弾と硝煙の匂いが晴れた後の戦場。闘いが過ぎた後の舞台。
 白く爛れたアスファルトの上にいくつもの皺が入り、耐えきれなくなった細かな亀裂が浮かぶ。
 そして、新たな硝煙の匂い。
 血の、薫り。
「あ」
 彼女のCCDにも彼の姿があった。
 確認。確認を。確認を急げ。
 そう何かが命令する。
 パターン照合では間違いなくユウ…でも、彼には瓜二つの人間がもう一人いる。
 確認をしなければならない。そして、ユウを探さなければならない。
 引き裂かれた藍色のYシャツを着た男。
 脇に抱えた血まみれの男。
「…ユウ?」
 眼鏡をかけて自分を睨み付けている。
 非常に冷たい表情。
 そこに残る明らかな敵意。
――…ユウ…
 繋がらない。
 まだ、身体のあちこちに痛みが見える。
 なのに、目の前にいるはずなのに。
「…ユウ、じゃ、ないのか」
 その時モニタが悲鳴を上げた。
 心拍数異常、ナノマシン増殖中。
 ユウが近くにいる?

  『ヲワラセル』

 うつむきかけていた貌を、弾けるようにあげる。

  ぐるぅわあああああああああああああああああああ

  『オワラセル』

 無機質な意志。
 ただの殺意の塊が、男の真横から襲いかかっていた。

  『ナマヱ』

 その、襲いかかった化物の身体がモニタされる。
 つい先刻まで何の反応もなかった彼女の中の『ユウ』が動いていた。
――…ユウ?
 彼女はユウの頭を探ろうとして接続した回線をたぐる。
 でも、彼の意識は一切の反応を返さない。
 彼の言語中枢からは壊れた意識だけが零れて流れてくる。
 全てを終わらせるのだ、と。

  おわらせる

「ユウ!」
 涙声に近い悲鳴。
――違う、あれは私の意志だ
 奇跡なんかじゃない。
――…もういいんだ

 そこにユウはいない。
 何の返事も、返してはくれない。


 衛星軌道上、小型攻撃衛星TRIDENT。
 搭載されているコンデンサーへの充電が開始される。
 器用に発電板を太陽に向け、搭載されている原子力電池の電力もほとんどを充電に回しながら。
 地上を見下ろす1つのレンズと3つの砲口が自らの身体を震わせる。

「どうだ?」
「だめですねぇ。マイクロ波でも無理です。高出力のIR波でも通りません」
 来栖川総合研究所。
 広い敷地に作られた中庭。
「くそ、真上にあるんだから重力波通信が使えれば…」
「無茶を言わないでください?米陸軍の技術じゃないですか」
 その中央で、一人の少女が空を見上げていた。
 赤い髪を靡かせて。
 何故彼女が空を見上げていたのか。
 そこにある自分の欠片が、何かを訴えていたからだろうか。
 それとも、彼女には判っていたのだろうか。
 そのガラスのレンズには、それが映っていたというのだろうか?
 やがて、少女の言葉が事実であることが、否応なく証明される。
「ふん、そんなこと言っていてこの東京一帯を焼け野原にしたいのかっ」
 どこから流れてきたのか判らないが、TRIDENTの照準データを受信した。
 照準点は、東京。
「有線でも電磁波のノイズが激しいのに、誰がアレにアクセスできるって言うんですか」
 受信した少女は無表情に彼ら研究員の姿を見つめている。
「…直ったばかりでまだバグってるんじゃないですか」
 ただじっと。
「完全に否定できるのであればそれでもいいさ。事が起こってからでは…遅すぎる」
 そして彼らに伝えた。
「――きます」


 後々、ある研究員が奇妙なログデータを発見した。
 HMX-13のデータをバックアップしようとして試験ログを見ていた時だ。
「主任?セリオって勝手に通信するような仕組み、もってました?」
「あ〜?セリオならそのぐらいの事はできるでしょうけどね…」
 相変わらずドライバー片手に彼は横からディスプレイを覗き込んだ。
 そこにはセリオの通信ログが記載されていた。
「ふーん、結構ずたずたのログだね。相手も判らないか」
 キーを数回叩くと、ふむ、と長瀬は顎に手を当てて研究員に言う。
「これは外部から彼女にアクセスしたんだよ。セリオが外部にアクセスしたんじゃない」


 やっとみつけた
 ここにもいたんだ
 私の――娘。


「悪戯でしょうか?」
 長瀬は口の端を僅かにつり上げて笑うと、肩をすくめる。
「消すな。…読まずにそのままバックアップしておいてあげなさい」


 もう忘れなさい。
 そして眠りなさい。
 悪夢はもう終わったのだから。


「悪戯にしては妙にせっぱ詰まった通信だからね。セリオにも、何か影響を与えるかも知れないから」
 そうして、彼は笑みを浮かべてその場を離れた。


        ―――――――――――――――――――――――


back top index