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Cryptic Writings 
Chapter:2

   第1話 Initiation

前回までのあらすじ
  
 『鬼』の事件の後、『薬』が隆山で蔓延していた。
 隆山でのバイヤーの元締めが自滅した。
 だが、まだ危機が去ったわけではなかった。
 

        ―――――――――――――――――――――――
Chapter 2

主な登場人物

藤田浩之
 16歳。目つきが悪い事をのぞけば結構ないい男。あらゆる事に素質があるようで、
 飽きっぽいところが欠点である。

佐藤雅史
 16歳。女殺し、実はモー○ーなどと噂されるほどの美少年顔、というか童顔。
 実は真が強く、浩之とはかなり仲がいい。天然ボケ。
 
長岡志保
 16歳。『最新情報は志保ちゃんニュースから!』という謎のキャッチフレーズを誇示する少女。
 五月蠅くて暴れん坊。

神岸あかり
 16歳。やけにおとなしくて天然ぼけなところのあるたれ目。
 浩之とは幼なじみだが、本人が何を考えているのかは実際は分からない。

        ―――――――――――――――――――――――

Chapter 2:Perfect crime

 夏休みが終わり、もう数週間が過ぎた。
 修学旅行もとっくに終わり、大学進学の為の大事な時期に入ろうとしていた。
 とは言っても、まだ余裕のある者、何も考えていない者、既に就職を希望している者。
 少なくとも、まだ追いつめられていなかった。
「へえ、もう次の試合が終わればキャプテンなんだ」
 ショート、と言うよりはおかっぱに近い髪型の少女。
「やっぱりお前だったな」
 目つきが悪いが、雰囲気は一切とげとげしさを感じさせない少年。
「うん、それで最近忙しくって。ごめん」
「ううん、全然構わないよ。練習、頑張ってね」
 あかりに合わせて、浩之も続ける。
「んじゃぁな」
 雅史は浩之に手を振って別れた。

――浩之も何か部活したら?
 彼は何度も誘ったことがある。しかし結局無駄に終わってしまった。
「よーし、練習始めるぞー」
 とても高校2年の男子に見えない彼は声を上げた。

 浩之はサッカーの練習をする雅史を後ろ見ながら、あかりと並んで歩いていた。
「雅史ちゃんも大変だね」
 でも、あかりはにこにこして嬉しそうにしている。浩之は少しその表情を眺めて同意するように頷く。
「あいつはあれでいいんだよ。それだけの練習だってこなしてんだ」
 これでも中学の時までは、浩之もサッカー部で雅史と一緒にサッカーをしていたのだ。
「浩之ちゃん、部活結局やめちゃったけど…大学には進学するの?」
 あかりは小首を傾げながら覗き込むようにして聞く。
「大学かぁ…そうだな」

 たわいない話をしながら商店街の方へ向かう。
 何の気なしに顔を向けると、ショーウィンドウに少女の姿があった。
 最近発売された、HM-12、13のマネキンだった。携帯電話のモックみたいなものである。
 そんなに普及するほどの安い値段ではないが、この街にも購入した人間はいる。
 まだ使い方を良く知らない消費者達は、彼女達を『箱入り』にしがちだという。
 だから、あまり街でその姿を見かけることは少ない。
「メイドロボか」
 あかりは何か言おうとして、目の端に妙な物が映ったような気がした。
「浩之ちゃん、ほら、マルチちゃんがいる」
 嫌でも目立つHM-12はどんなに遠くからでも判別できる。
 あかりの指さす方向。
 かなり遠くだが、確かに緑色の髪の毛が見えた。
「ばーか、量産型だろ」
 浩之はそれでも一応そちらに目を向ける。
 緑の髪、特徴のある耳カバー。
 そして、おどおどした表情。
「!」
「ね、マルチちゃんでしょ?」
「ああ。…そんなはずは…」
 言いながら、浩之はマルチに釘付けになっていた。
 マルチ――試作型は量販品とは実は一目で見分けられる。
 彼女には表情があるからだ。
「だって、売ってるのはもっと人形みたいな顔だよ」
 話をしているうちに、すっとその姿は人影の間に消えた。
「そうだな」
 その時は何かの偶然か、としか思っていなかった。
 

 練習が終わり、片づけを終えた下級生が全員引き上げたのを確認して、雅史は学校を出た。
 もう日も暮れかかっており、帰り道ももうかなり暗くなっている。
 久しぶりに一人で歩いていた。
 何気なく顔を向けたところに、緑色の髪の毛が見えた。
 そう思っていなくても、それを確かめるためにしばらく見つめてしまう。
 それは仕方のないことだった。
――マルチちゃん?
 雅史は目で彼女の後を追う。
――どうしよう、浩之にも言った方がいいかな…
 浩之が仲良くしていた、不思議な転校生。
 ほんの一週間ほどの『試験』に立ち会っただけだとは言え、彼もマルチを人間のように感じていた。
 マルチはロボット何かじゃない。
 浩之が力説していたような記憶もある。
 しかし電話しようにもあいにく公衆電話も携帯もPHSもない。
 そうこうしているうちに、おどおどした彼女は暗い路地の方へと歩き始めた。
 嫌な心配事が頭をよぎる。
――…よし
 彼はなけなしの根性をかき集めて腹を据える。
 彼女が向かう先だけでも見守ってやろうと。

 この辺の路地は結構入り組んでいる。子供の頃に『近道』を探して潜り込んだ事もある。
 意外なところに通じている事もある。
 マルチの姿は非常に目立つものの、この時間の路地裏はしみ出した夜の闇が淀んでいて、
 月の光だけでは非常に心許ない。
――一体どこまで行くつもりなんだろう…
 そう考えた瞬間。
「おい」
 乱暴な男の声。
 同時に、暗く落ちていく感覚。

 暗転。

 
 街の片隅。
 薄汚いアパート。
 あまり人通りもなく、寂れた場所にあるためか、ここにはあまり人は住んでいない。
 金属製の錆びた階段があり、ベランダ代わりの桟が窓に備え付けられている。
 その一角。
 日当たりは良好だが、外界と決別したようなついたてが窓から覗く部屋。
 その、中央。
 およそ六畳敷きの部屋の中に男がいた。
 緩やかな淀みの中に、薄明かりを灯している。
 モニターだ。
 一切生活感のないこの部屋には、コンピュータ機器だけが備え付けられている。
 キーボードの側にあるマウスを扱って、何か操作している。
 時折こぽこぽと水音を立てるのは、奇妙な円筒形のものだ。
 それからは様々なコードが伸びて、男の操作しているコンピュータに繋がっている。
 部屋の隅においている四角い塊のような機械も同様だった。

  かちかち
 
 忙しくマウスをクリックする。
 画面に映っているのは、何かの分子組成モデルのようだった。

  とんとん

「誰だ」
『俺だ』
 抑えた声が聞こえた。男はむうと唸って席から立ち上がると、それ程遠くもない扉に手をかけた。
 扉の向こうには眼鏡をかけた男が立っていた。幾分鋭く、あまり好印象を与えない目だ。
「遅かったな、一体どこでさぼっていたんだ」
「いや、こそこそとHMの後をつけてた奴を…少しな」
 ユウと呼ばれた男は表情を変えずに言う。
「殺したのか?」
「まさか。眠らせてきただけだ…それに今日はまだ…」
 ユウは眉を顰めた。別に今の話に嫌気がさしたわけではない。
 鉄の階段をけたたましく転がり落ちる音と同時に、子供の声のような物が聞こえたのだ。
 彼は、睨み付けるように音のした方を向いた。
「あのばか」
 言いながら、初めて男が姿を出した。
 蒼い夜の月の光に照らされた姿は、白衣を着た四十台の学者風の男だった。

  かつん かつん

「ふえ、ふえ、きょ〜じゅぅ」
 泣きながら白衣の男のところへと歩いてくる。
 緑色の髪をしたメイドロボ――マルチは涙をこすりこすり声を出した。
「こら、大きな声を出すな。全く、料理はできない、お使いもできないとは」
 ぐずぐずいうマルチを部屋に押し込み、彼らは部屋へと入った。

  ぱたん

 扉は閉められた。
 それっきり、何の物音も聞こえなくなった。再び夜の静寂がそこに訪れていた。

 マルチはほんの僅かな期間、学校に通っていた。
 試験運用、そう彼女は言っていた。
――…研究所へ帰ったんだよな…
 その後、彼女は『妹』達のために眠りについたはずだ。
 そして彼女の妹達は発売された。
『心があった方が良いと思うかい?』
 変な白衣の親父は、浩之にそう聞いた。
 長瀬源五郎とかいう、来栖川の研究員だった。今思えば、『娘』の友人に会いに来たのだろう。
――…マルチな訳…ないよなぁ…
 そして、次の日。
「結局見間違いだったのか?」
 少し困った表情を浮かべるあかりにちらと顔を見せながら言う。
「うーん…」
 学校に行く途中、志保に会ったので早速マルチの事について聞いてみたのだが。
「あれでしょ?どうせヒロが見たメイドロボを見間違えて…」
「馬鹿野郎、あれはあかりが見付けたんだっ」
「そ、そうだよ志保、浩之ちゃんが間違えたんじゃないから」
 浩之はぺろっと舌を出した志保の頭を小突く。
「いい加減なことを口走るな。…でも、あれは本当にマルチだった。な、あかり」
 あかりはにっこり笑って頷く。
「こんなあてにならない奴より、他の連中に聞いてみようぜ」
「あてにならないとは聞き捨てならないわね」
「なんだ?いつもの事だろうが」
 噛みついてくる志保に適当に呆れた表情を見せてため息をつく。
「全く、自覚がない奴は困るよな」
 二人ががみがみ言い合っているのを、あかりはくすくす笑いながら眺めていた。

 その日のホームルームは、妙に騒がしかった。
「雅史の奴、遅いよな」
 あれから何人にも話を聞いたが、知らないか気にしていないかのどちらかだけだった。
 実際に見かけたのはあかりと浩之の二人だけだという事だった。
「あれ?浩之くん聞いてへんの?」
 隣に座る、眼鏡の委員長――智子が怪訝そうな目で聞く。
「は?」
「雅史君、入院したらしいで」
「なに?何だって?」
 側で話をしていたあかりも目を円くして驚く。
「雅史ちゃんが?」
「何や、必死に聞きまわっとったのはそれとちゃうんか?」
 浩之とあかりは顔を見合わせてしまう。
「…ま、なんや、先生が何か教えてくれるかも知れへんし」
 希望的観測というよりは、何もできない諦めと言う方が正しいのだろう。
 浩之も彼女の言葉に頷くことしかできなかった。
「佐藤君は後頭部を強打して入院している」
 担任は病院の名前と場所を知らせると、それっきり話を止めた。
「浩之ちゃん、お見舞い行こうよ」
「そうだな。あかり、果物か何か買っといてくれないか?後で金は出す」
 あかりはにっこり笑って応えた。
 

 長瀬はゆっくり頭をもたげた。
「主任」
 彼は、メイドロボの開発主任――来栖川の現在の最先端を突き進む男だ。
 それだけに、彼の周囲に与える影響は大きい。それが良きにしろ悪しきにしろ。
 顔は上げた物の、手元はかちゃかちゃまだ動いている。
「んー?」
 彼は口にねじをくわえたまま返事を返す。
「HMX-14、完成はまだかって来てるんですけど」
 長瀬はかく、と頭を下げる。そして口にくわえたねじを左手で取ると眉根を寄せる。
「あのねぇ…」
 今の不景気の中で唯一興行成績を伸ばしている部門だと言ったって、そんなにぽんぽん新製品を出せるはずがない。
「言ってやって?パソコンがどれだけ、どうやってマイナーチェンジしているのか」
 確かに年に1度は同型の改良版が販売されている。
 新型に至っては1年に何台も売れている。
 だからと言って同じ事が一人の手でできる訳じゃない。
「まだHM-13が販売されたばっかりでしょうに」
「…それは主任が言って下さい」
 もっともだ、と彼は工具を置いて、客が来ている部屋へと足を向ける。
「ああ、ついでにそいつの組立、代わりに進めてくれんか」
「しゅにーん!まーた内職してる!」
 おいおい。
 長瀬は先刻まで工具を握っていた手で頭をかいた。
――販売部門の人間が来てるんだろう?
 仕返しのつもりか?
 長瀬は困った表情を浮かべたまま、部屋の扉に手をかけた。
 部屋には、セリオと、不似合いに古めかしい装束の老人が座っていた。
「!会長」
 男は威圧感のある目で長瀬を見上げる。
――…勘弁しろよ…
 先刻の部下の言葉を恨めしく思いながら、彼は老人の視線に耐えていた。
「まさか会長が直々に…」
「そうだ。他の連中をやったところで効果がなかったからな」
 長瀬はため息をついて頭をかいた。
「あのですねえ。開発は進んでいますとも、着実にね。でもそんなに慌てたって何もでないものはでません」
「ああ、君ならそう言う答えだろうとも思っていたが」
  やけにあっさりと言うと、会長はセリオに視線だけ向ける。
 セリオは懐から写真を一枚差し出して、会長の座る目の前に置く。
「本題はこちらだ」
 写真に映っているのはメイドロボのフレームだった。
 若干痛んでおり、一部は完全に破断している。
「…なんですか?これは」
「つい先日の話だ。警察の方から連絡があってね」
 そう言うと長瀬に自分の前に座るように促す。言われるまま彼は彼の前に座る。
「暴走したメイドロボが殺人事件を犯したというのだ」
 長瀬は目を円くした。
――そう言えば…兄が何か言っていたな
 ついこの間、兄がメイドロボが暴走してたのなんだのっていう電話をくれたところだった。
――たちの悪い冗談か、嫌がらせだと思っていたが…
「隆山からだ。そこでフレームを確認したんだが、一般向けに販売したロットではなかった」
 長瀬は写真をつまみ上げて見た。
 若干の改良が加えられた跡があるフレーム。
「そして、これだ」
 今度は懐から黒い金属の塊を差し出した。
 初心者マークような形をした、幅3cm程の刃。
「!」
 無論、彼はそれには記憶がある。
 後ろの、谷になった部分に圧搾空気の吹き出し口が左右3個づつ対照に備えられている。
「これが死体の中から発見された。警察はこれを凶器と断定した」
「当然でしょう」
 言いながら彼は歯がみした。
 来栖川重工第8研究室。通称『兵器開発部』。
 今は既に実際の部署としては存在しない、過去の部門。
 長瀬は直接反対運動を進めていたわけではないが、結果として長瀬が潰した事になる部門だ。
 メイドロボ――HM-12の完成が、来栖川の兵器開発を中止させた。
 兵器としてのロボット開発よりも、平和への利用。
 長瀬の作った『心』が、それを果たしたのだ。
 会長はじっと長瀬を見つめる。
「あの男は執念深いぞ」
「この写真を見れば分かります」
 そう言って長瀬は立ち上がった。
「自分の娘を殺人に使われて、気分を害されましたよ」
 彼は口を歪めたまま会長を見下ろすようにしてポケットに手を入れる。
「結局君に頼るしかないのだ。…心してくれ」
 長瀬は苦笑いを浮かべて見せる。
――決定権は会長、半ばの責任はその決定をさせた私に…か
 それは自嘲とも、そして自慢ともとれた。
「ええ、これ以上迷惑はかけられませんから」
 会長は頷いて立ち上がった。
 セリオはしばらく長瀬の顔を見つめていたが、やがて会長の後ろについて歩き始めた。

 次回予告

  既に凍結されたはずのマルチが、目撃される。
  「そうだった。浩之、昨晩マルチに会ったよ」
 あり得ない事実に驚愕する浩之達。
  そして、綾香の元に連絡が入る。

  Cryptic Writings Chapter 2:Perfect crime 第2話『Mission KidNap』

   HMX-12マルチは、誘拐されたそうです

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