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非日常


 それはそれは、本当に気持ちのいい朝でした。
 うん、多分。
 …そう思えばきっと気持ちがいいんですよ。ええ、これは間違いありません。
 聞いたことはありませんか?
 「人間、思いこみの激しい生物だ」って。
 誰の言葉でしたっけ?
 ああ、『肉体は精神のおもちゃだ』だったかしら。
 まぁそんなことはどうでも良いんです。
 今は朝の五時。俗に言う夜明けとかそんな時刻です。
 お日さまが登る前から起きてる自分としては、どうでもいーかなーって思うんですが。

  がさがさ

 こういう朝日を好きこのんで拝みたがる連中というのも居るんですよ。
「うーん、いー気持ち」
 常識外れな吸血姫とか。
 白猫もどきとか、似非吸血魔人とか、一人の人間しか血を吸ってない半端者とか。
「……それって、誰の事かしら?琥珀さん?」
「あら、聞こえてましたか」
 ちょっと反省。

 教訓:独り言はできる限り口を開いて言わないようにしよう

「全部声に出してるって」
 あちゃ。
「あははは。それは意外でした」
 そんなことよりも忘れてはいけない。
 この非常識の大魔王が、私の家庭菜園に土足で今踏み込んで居るんですよ。
「これのどこが家庭菜園よ。全く、非常識なのはどっちかしら」
 呆れた格好で両手を腰に当ててふんぞり返ります。
 …じっせんちも大きい胸を、この私の前でみせびらかしますか。
「あーあ、中世ヨーロッパの教会でもここまで酷いところはなかったわよ」
 さすが伊達に800年も生きていない。
 シェークスピアだってネタにしてましたしね。
「酷いのはあなたです。……アルクェイドさん、ここがどこかご存じです?」
「ええ、良く知ってるわ。ここは遠野の屋敷、志貴の家よ」
 かかった。
「いいえ、違いますよ。ここは私の世界――遠野の屋敷とは仮の姿」

  ずばっ

 そう、どばーっときめましょうどばーっと。
 わたしは懐に隠し持っていた垂れ幕を大きく開きます。
「『琥珀の秘密の世界』へようこそ!」

  しーん…

「…琥珀、あんたって意外とお茶目なのね」
 がーん。
 徹夜で考えたフレーズなんですよ?
 その一撃で粉砕しますかこの吸血姫は!
「徹夜って…そう…」
 ええい、もう赦しません。
 ええ許してなるものですか。
「この琥珀、もう一歩も譲りませんからね!」
「何を」
「私の大事な家庭菜園を馬鹿にして、しかも踏み荒らした罰です!」
 すちゃ、といつもの竹箒を構える。
 ええ、大事な竹箒ですよこれは。
 世界に二つとない一品です。
 魔女だって欲しがりますよ〜。
「いらないわよ、そんなもの(by 青子)」
 ああ、今どこからか魔女の声が(笑)。
「くらいなさい!」

  かちり

  ががががががががががががががががががががががががががが

 硝煙の匂い。
 うーん、この時のために隠し持っていてよかった♪
「う、うわ」
 ほらほらほらほら、おーどりなさーい♪
「よけても無駄ですよ〜」

  ががががががががががががががががががががががががががが

 この竹箒には機関銃が仕込まれていたのです!
 仕込み杖よりも確実、なによりもこの弾丸も特別製。
 ヴァチカンからぱちくってきた銀十字をこれでもかと言う程祝福した物を溶かしてるんです。
 13mmもなくても充分人外に効果があるんです。
 あの不死身女で試してきましたから間違いないです。
「こ、こらっ、なんて非常識な事をするのよっっ」
「えーい、非常識な方に非常識って言われるとは思いもしませんでしたよ〜」
 ホントに、この人外めは。
 一度死んじゃってください♪

「はぁ…はぁ」
 ええい、よくもまぁ弾が切れるまで逃げてくれましたね。
「意外にやりますね」
「…あんたもね」
「これはご褒美です」
 懐から出したのは、ダイエットコークです。
 最近はかろりーおふがはやりですよね。
 炭酸水って体に悪いだけじゃなくて、めちゃくちゃかろりー高いんです。
 知ってました?
 だけど、※の国の方々って、そーまでしても飲みたいみたいです。
 のんかろりーコーラってあるじゃないですか。
 世界でもっとも役に立たない飲み物ですよね。
 炭酸水なのに、カロリーすらないなんて、体に悪いだけです。
「…………全然ご褒美じゃないじゃないの」
 あ、しまった。
 また口に出していたようですね。
「気にしないでぐーっと逝って下さいぐーっと」
 と、言いながら私もお茶をペットボトルで出します。
 ぐびぐび。
「…ねぇ」
「はい?」
「これ、ダイエットコークなのに、妙に甘くない?」
「ええ、甘いですよ」

  にたり

「…この世には『甘い』劇物って言うのもあるんですよ?」


 なんか意外に歯ごたえのないえものでしたね。
 真祖って、こんなに呆気なく死ぬものでしたっけ?

  ごりごり

 ああ、硬直してて堅いこと堅いこと。
 ホント、志貴さんのような眼が欲しいです。

  ごりごり

 放っておきたいですけど、野犬にたかられるのも嬉しくないですよね。

  ごりごり ぶちん

 ビニールにつつんで、離れの下にでも埋めてしまいますか。
 ちょっと、シキさまのとこに行く時不便ですけど。
 臭いし。
 何より…そうです、これはこぶの、翡翠ちゃんにもやってもらいましょう!
 ええ、いいあいであです♪
 バラすのに手間取りましたから…そろそろ良い時間でしょう。
 このぐらいでしたら、志貴さんの準備も終わってる頃でしょうから…

「あ、翡翠ちゃん、もういいかしら?」
「はい、なんですか姉さん」

                     to be continued.....



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