「遠野くん!」
丁度昼食をとろうかと思っていた時のこと。
有彦が嬉しそうに振り返るのと、聞き覚えのある声に俺は首をひねった。
――なんで先輩がこんなところにいるんだろう
「大変なんです」
「先輩、一体どうしたの」
「とんでもないテレビ番組が、日本では放送されているんですね」
怒ってるのか興奮しているのか、激しい口調でまくし立てるシエル。
「カレーパンを頭にしたヒーローなんて信じられますか?」
ああ。
某子供向け番組の「たたかへ!ぱそめん」シリーズのかれーぱそめんのことか。
この番組、かなりいかれている事で有名なのだ。
そもそも食べ物を粗末にしているし、子供に頭を食べさせるなど言語道断。
「先輩、あれも現実じゃないんだから」
いや、ひじょーに非現実なところにいる方々の思考ってのはよくわからないけど。
「でも大変じゃないですか!あんなのがうろうろしていたらもうたまらないじゃないですか!」
……何がたまらないのだろう。
ちょっと、シエル先輩がなにをいいたいのかわからない。
「わたしだったら第七聖典でずたずたにして二度と生き返らないように封印してあげます」
「ちょ、何興奮してるの、そこまでしなくていいじゃないですか」
有彦も混乱してるし。
「いーえだめです!わたしのカレーパンの為にも!全国のよいこのためにも!今すぐ滅ぶべきですかれーぱそめん!」
がたん、と一人で興奮して教室を出ていくシエル先輩。
「あ、だめだ!」
「…?どうしたんだよ、先輩…」
「テレビ局に抗議に行くつもりだ!止めなきゃやばい!」
埋葬機関第七位のシエル先輩のことだ、テレビ局なんかあっという間に崩壊してしまう。
普段なら良識ある先輩なんだが、カレーについては少し違う。
…少しなら、まだいいんだが。
「何!わかった遠野、俺に任せろ!」
なにを。
時々、俺はこいつのことがよくわからない。
「高田!バイク借りるぞ!遠野、後ろに乗れ!」
彼はいつものごとくにこにことバイクの鍵を渡してくれた。
うん、いつもながら良い奴だ。
こうして俺達は、ぱそめんしりーずの存亡をかけた戦いに出向くことになった…
で、国藤せんせに怒られたり警察にぱくられかけたりした冒険が色々あるんだが。
「そーです。所詮はアニメの話なんですから」
何とかテレビ局壊滅の大惨事になることは、直前にとめる事ができた。
「そそ、そうだよ、何も興奮することないじゃないか」
「ええ。非難のはがきを書いて送りつければ済むことでした」
長年続いたぱそめんシリーズの終わりが、ヴァチカンからの大量の投書だったという事実は、実は明らかではない。
…付け加えるが、アニメの終わりの知らせを聞いた日の夜、かれーぱそめんに襲いかかるシエル先輩の夢を見た。
嬉しそうに頭をかじる彼女の姿は、何か、こう…猟奇的だった。