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妹の心兄知らず


 朝5時。
 御嬢様としての教育を受けた、遠野秋葉の朝は早い。
 しかし教育云々の前に、彼女はそもそも朝に強い体質だった。
 優雅に琥珀に起こして貰い、すぐに着替え。
 側に琥珀が立っているので、脱いだ服を手渡すと袖を通してくれる。
 朝食の用意もすでにできている。
「琥珀、今日は変わったのお願い」
 食後のお茶の事である。
 まぁ『食後』に頼むのが普通かも知れないと思うだろうが、それは違う。
 良いお茶というのは煎れるのにかなり手間がかかるのだ。
 器の準備、蒸らしの時間、朝食を食べる時間ぐらいは平気でかかる。
 それも一人分煎れるのも二人分煎れるのも、さして変わらない。
 ポットを暖めておいて、カップとサーバーは冷えないように気を遣いながら。
 兄が帰って来る日から言い含めておいたとおりに二人分用意しているだろう。
 6時すぎ。
 食事を終えた秋葉はロビーに向かい、ソファに腰を下ろす。
 まぁ大抵の場合はこの時間には食事を終えて、ロビーで紅茶を飲みながら過ごしている。
 隣町、と言っても車を使えば楽に行ける。
――まだ時間がある
 余裕を持ってくつろいでいれば、急に兄が起きてきたとしても大丈夫。
 いかようにも対応はできる。

 一時間後。
 もうさすがにポットも冷え切っている。
 冷めてしまっている。
 暖めておいたカップだって冷え切ってて、これじゃぁせっかくのお茶がまずい。
 …秋葉の心がいがいがしてくる。
「琥珀、翡翠は?」
「翡翠ちゃん?今志貴さまを起こしに行ってるはずですよ」
 いらいらいらいららいららいら
 …あれ?
 ともかく彼女は苛々している。
――折角のお茶が台無しじゃない
 その時、大あくびをしながら兄が階段を下りてくる。
「やあ、お早う、琥珀さん」

  ぷちっ


 そりゃ、切れるわ。
 結局今日も、志貴は妙に機嫌の悪い妹に不思議に思いながら登校しましたとさ。



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