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『穹』から零れた物語

第2話 楓の場合

 いいの?
 本当に、私はこれでいいの?


 暗い闇の中でじっと光を見つめながら。
 両膝を抱えてうずくまっている。
 月の光に照らされて出会う二人の姿に憧れるように。
 言葉が通じなくても、心が通じたように。


 でも間違ってる。


 暖かい彼の腕。
 優しい言葉。
 それを求めていながら、強烈な違和感にまるで自分が真っ二つに引き裂かれるような。
 違和感?
 違う。
 初めから――それは初めから一つの過ちに過ぎなかったんだから。


 ジローエモン。
 でも、エディフェルじゃない。


 騙されている男の目。
 優しい言葉をかけながらも僅かに焦点のずれた視線。
 それが自分のせいだと知るのは、そんなに難しい事ではない。
 本当に、それを真実と知っているのは彼女一人。


 夢だって、私のせい。
 今の此の気持ちだって、貴方のその言葉だって。
 これは夢?それとも…


 騙している気持ちも、いつかは潰える。
 いつの間にか、騙しているものに騙されていく。


 ジローエモンじゃない。
 でも、私はエディフェル。


「すみません、このぐらいの吊り目の女の子、見かけませんでした?」
「知らないね」
 芳しくない応えに落胆して走り去る耕一。
 それを見送る姿。
 小さく蹲って、見えないように物陰に隠れて。
 泣きそうな、笑顔で。
――…このままどこかにいなくなってしまいたい
 それがどういう意味なのか、彼女は考えたくなかった。
 自分が誰かも判らずに。
 最初に切り出したのは自分だ。
 自分はエディフェルで、貴方は次郎衛門だと。
――ちがう
 でも、彼が追いかけてくるまでの間に、思い出した。
 彼の見ていた夢は自分が作った物ではなかったのか?
 初めから自分の作り出した茶番だったのではないのか?
 そして結果、騙された彼は果たして自分を見ているのか?
――私はエディフェルじゃない
 両掌を月の光にさらし、白く透けた肌を映し出す。
――あの人の目には、私は映っているの?

  どこからどこまでがしんじつで

――わたしは…誰?

  なにがうそでなにがにせもので

――あなたは…だれなの?

  信じるにたるものは、いったいどこにある?

――耕一さん、貴方は次郎衛門じゃない
 思い出して欲しい。
 忘れて欲しい。
 想って欲しい。
 それが卑怯なら、罵られたって構わない。


   でも、貴方の瞳から彼女が消えないのであれば、私がここにいる意味はない


 彼女の目には走り去る耕一の姿があった。
 いつまでも走り続ける彼の姿があった。
 多分、次に彼の姿を見る時には。

 …多分。



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