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貴族


「はい、これ」
 そう言って差し出されたのは真っ赤な色の紙包み。
 若干真ん中付近が小さく膨らんでいる。
 大きさは、小さなカード計算機ぐらい。
 そして、申し訳程度のリボン。
「勿論、本命よ」
 彼女は吊り上がり気味の目を楽しそうに歪める。
 少し悪戯っぽい仕草が、彼女らしい。
「…」
「どうしたの?」
 小首を傾げて不思議そうに見つめる彼女。
 受け取った青年はわなわなと手を震わせている。
「つーか…魔族がバレンタインにチョコを渡すな!」
「えーだめなのー?」

 一応St.って頭についてるでしょうが。

       ―――――――――――――――――――――

 後日談。
「…ルミラ、何か勘違いしてないか?」
「何を?」
「猪口を渡す行事じゃないぞ?」

 数分後、この世のものとは言えない悲鳴が上がりましたとさ。

「なんだ?たまの奴、また何かしでかしたのか?」
 エビルは眉を顰めて声の方に顔を向けた。
「…人間の考えている事はよく分かりません」
 イビルはエビルと目を合わせようとしなかった。

         《おしまい》

 ※猪口とは、日本酒のおちょこです。


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