戻る

祐介(競作:全てが○になる)

 
 目を閉じるんだ。
 目を閉じて、全てを闇にしてしまう。
 そうすれば…今までになかった物が感じられるようになる。
 地面のぬくもりと、草いきれが鼻をつく。
 がさがさと草を踏みしめる音と、トンという軽い音。
「こんなところでどうしたの、祐君」
 沙織ちゃんの声。
「お昼寝?」
 僕は愕然とした。
 ただ唖然と…その声を『聴いて』いた。
 彼女が寝ころぶ音は聞こえなかった。
 聞こえるはずがない。
 何故彼女が『いるんだ』?

 だって僕は…全てを無にしてしまったから。

 目を開けるのが怖い。
 再び起きあがることが怖い。
 今すぐ側に彼女がいる。
 なのに…
 いるはずないのに…
 目を開けると居なくなっている様な気がして、怖い。

 彼女は僕の妄想が作り上げた闇の世界の住民なんだ。

 もう僕が目を閉じている間でしか、この世には存在しないんだ。
 きっと…


top index