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梓の騒乱??

                                           乱シリーズ:4(最終話)

前回までのあらすじ
 薬には予備があった。
 でも、間違って耕一に呑ませてしまった。
 耕一まで胸が大きくなってしまった。

 男性と女性では胸の作りが違う。
 なのにまあ、そのまま女みたいになったせいでぼーん。
 ま、そう言うことだ。別に彼は女になったわけではない。
「まーどうしましょう」
「…千鶴姉」
 梓の視線がいたい。
 いや、分かるでしょそりゃ。
「さっき何か混ぜ物したんだろ」
「え?な、何梓」
「とぼけんなぁ!」

 …と言うわけで。
 錯乱した楓を捕まえて、全員居間に集合する。
「んじゃ、別に女になったわけじゃないんだ」
 と、梓。
「…ま、そうだな」
 よけいなでっぱりがついたぐらいである。
 それも困るのだが。
「心なしか小さくなってません?」
「しぼんでるかも」
 元々ないものだし。
「ともかく、一番悪いのは千鶴さんだって事だね」

  じとり

 一斉にジト目で睨まれる千鶴。
 引きつった笑みを浮かべて額に冷や汗。
「いや、あ、まぁその…」
「待って!」
 一人、彼女を睨んでいなかった少女、初音。
「待って、お姉ちゃんだけを責めないで!」

  じーん

 千鶴は普段から天使に見える初音が、本物の天使の様に見えた。
「は、初音」
「初め、あたしがお姉ちゃんに相談したの、『胸が大きくなるにはどうしたらいいか』って」
 ふむ。
 今のところ、特に問題はない。
 千鶴から逸れた視線に特に何の変化もない。
 初音をじっと見つめるだけだ。
「…それで」
「…うん」
 初音も言葉を失ってしまった。
 そして、一斉に視線が千鶴に戻る。
 目を真っ黒にして、こけた頬に両手を当てて、後ろの背景がうねうねとラスター割り込みしそうな顔をする千鶴。
 今の彼女には、純粋な初音の眼差しが魔女狩りの熱い焼けた鉄の棒よりも痛かった。
――そんな目であたしを見ないでーっ!
「それでなんで、耕一の胸が大きくなるのかなぁ?」
 梓の目が赤くなってる赤くなってるよぉ。
「あ、梓ちゃん?」
 いつかまな板を切り裂いた時のように、いやいや、お皿のセットを全て砕いたときだったかしら?
 自分の犯した過ちを思い出しながら、どんどん大きくなる梓を見つめていた。
「さあ、説明して貰いましょうか」

  しばらく おまち下され…

 説明をした後、大暴れをしそうな梓を後目に、耕一の胸は元に戻っていた。
「いやあ、一事はどうなることかと思ったよ」
 安心した声を出す耕一の隣で、梓は鬼の形相をしている。
「…千鶴姉、何で初音の胸を大きくするのに、あたしの胸を小さくするの?」
 いや、果たしてもう何に腹を立てているのか分からなくなっているが。
 千鶴に腹を立てているのはたしかなようだが…
「いや、あの、それはね、貴方だけが胸が大きいから…」
「千鶴姉!」
「まあまてよ梓」
 火がついたらもう燃え尽きても火だけが残りそうな勢いの梓を止めに入る。
 別に他意はないが。
 耕一は二人の間に入る。
「千鶴さんも悪い。まず謝る」
 耕一に促されて頭を下げ、ぺこぺこ謝る千鶴。
「ごめんなさい、どうかしてたわ」
「…本当にどうかなってんじゃないの?」
 まだ睨み付けている梓の頭を小突いて耕一が言う。
「いいから。まったく、女性の価値は別に胸の大きさじゃないぞ?そんな物気にしてどーするんだ」

  おおおおおお

 何となく正論。
 思わず四姉妹も頷いてしまう。
「俺はそんな物気にしないぞ」
 言い切った。
 感動しつつ、梓は舌打ちする。
「いやむしろ小さい方が良いような気がする」
 …?
 若干方向性が…
「そうだなぁ、背も低い方が」
 若干空気の温度が下がる。
 ぱきぱきと張りつめて棘のように突き刺さる。
「歳も…」
 と言いかけた所で、三人に囲まれていることに気が付く。
 振り上げた拳の行き場を失った、梓。
 何度も計画を失敗したあげく、最後のジャマを耕一によって(不可抗力でも)された千鶴。
 その妄想癖で振り回された楓。
「…あ、あれ?…ね、ねえ、何でみんなそんなに怒ってるの?ね、ねえってば」
『こんんのやろぉおおおおおおおお』


 こうして、この物語は幕を閉じた。
 その後、この話に触れることも、胸に触れるもとい胸の話題に触れることも禁句とされた。
 柏木家に伝わる、忌まわしき伝聞と恨みの物語。

 余談であるが、これ以降初音の耕一を見る目が変わったという…

              <今度こそ終わり>


まえ  いんでっくす  とっぷ