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ましろとまくら そにょ※ バレンティヌスデー

 皿の双子、うさぎのましろとまくらが住み着いて早半年が過ぎていた。
 バレンタインデーが近づいてきて、健太郎は最近そわそわしていた。
 と、言うのもあれだ。
 最近結花が顔を見せなくなったからだ。
「はにーびーが忙しいらしいよ」
 と本人からではなくスフィーあたりから聞く物だから、もうますますそわそわすることになった。
「最近けんたろが冷たいぃ」
 とスフィーがましろ辺りに愚痴るのももう日常茶飯事。

 そんな、バレンタインを待つぎりぎりの線での事。
「ましろー、ましろー」
 ぱたぱたとまるでしっぽを振るように着物を揺らせて駆け寄るまくら。
「…姉さんを名前で呼ぶな」
「ん、じゃあねき」

  すぱこっ

 どこから取りだしたのか、安そうなビニール製の、俗に言う便所スリッパでまくらの頭をはたく。
「だぁれにそんなもの習ったのか。この馬鹿妹が!」

  すぱこすぱこっ

 涙目で頭を抱えるまくら。
「うみぃ、ごめんなさいぃ」
 すんすんと泣き声をあげる自分の妹を見ながらため息をつく。
「それで。何かあったのか?」
「…ヴァレンタインデーって、ヴァレンタインウィスキーの日だって聞いたんだけど」
 何のつもりだ。つーか誰から聞いた。
「違うぞ、妹よ。ヴァレンタインの曲が一日中大音量でかけられる日だ」
 なんだそりゃ?
「二人とも違うわよ。バレンタインデーってのは、その昔に米軍のバレンタイン」

  すぱこっ

「スフィーっ!お前まで嘘を教えてどうする!」
 いつの間にか現れていた健太郎がスフィーの頭をこれまた便所スリッパではたく。
「あ、あにすんのよけんたろ!これは由緒正しい漫画から得た知識で」
「出所は由緒正しいが、そんな古い漫画のネタはやめろ」
 しくしく。
「いいか?俺が正しいバレンタインの話をしてやる。ほらほら、近くば寄って音にも聞け」
 そもそもバレンタインデーってのはSt.、すなわち聖人バレンタインを祝う話だ。
 殉教した彼を『恋人の守護神』としたのが原因らしいが…
 別にチョコレートとかは関係ない。
 世界中でもチョコをばらまくのは日本とあとヨーロッパにある小国だけだそうだ。
 アメリカじゃ、『steady』に対するお祝いの日に設定されてるらしいぞ。
「だから、ちょこれーとなんぞいらん」
「あ、開き直って立ち直りやがった」

  すぱこっ

「うるさい!にほんのしょーぎょーしゅぎにならうばかたれどもが!」
「ひ、ひらがなで喋ってる…」
「ちくしょーっ!ばれんたいんのばかたれー!ひとことローマ法に従うっていってキリストを裏切ればこーならなかったんだー」
 意味不明な叫びを残して彼は走り去っていった。
 よっぽど悔しかったのだろうか。
 取り残された3人はきょとんと顔を見合わせると、誰が言うともなく言った。
「ちょこ、買ってこようか」

      ***************************************

「うう、おれはぶでぃすとだ…きりしたんなんぞにまけてたまるか」
 ふーらふーらと街を彷徨う健太郎。
 どこに行ってもバレンタインバレンタインと書き殴ったかのように一色に染まっている。
 そう、それは赤。
 赤は血の色。
 血。
 血。血。
 血。血。血。
「ち、ちだ、ちぃちぃちぃ」
 …何故か奇妙な方向に壊れ始めた。
「ばれんたいんでーがあるなら弘法も筆の誤りの日があってもいいじゃないか」
 妙な電波をだだもれさせながら、彼は自宅の門をくぐった。
 その途端、店の入り口にまで甘い匂いが漂っている。
「ぁあ、こらまくらっ」
「え?これ砂糖じゃないの?」
「あーんもぉ、真っ黒に焦がしてどうすんの!」
 わいのわいのと女の声が響いている。
 四人分。
「ほらほら、初めてなんだからもっと優しく」
 結花。
「えー、っこれ、なかなか、むーっ」
 スフィー。
「ん、甘い。これは砂糖」
 まくら。
「とりあえず湯がわいたぞ。型も用意できた」
 これはましろだ。
――台所で何か殺っているらしい。
 まて、健太郎、まだ電波が残ってるぞ。
 チョコレートの匂いに誘われてふらふらと台所を覗くと、案の定四人がきゃいきゃい言いながらチョコを作っていた。
「あ、けんたろおかえり」
「おかえりなさぁい、アナタ」
「あ、まくらとはそーいう関係だったんだ」

  すぱこっ

「誰がだ誰が」
 ましろからスリッパチョップを喰らうまくらを見ながら結花に引きつった笑みを浮かべる。
「それより結花、お前」
「私は商業主義だけどね」
 に、と笑みを浮かべて皿を差し出す。
 ホットケーキのシロップの代わりに、チョコソースがかけている。
 バターの代わりに生クリームが添えられている。
「2/14限定販売で作ってきたのよ。これ、ちょっとした自信作だよ。一週間もかけて作ったレシピなんだから」
 彼女はない胸を張って、思いっきり商業スマイルを見せた。
 …嫌みか?

 ちなみにその後、十字架に張り付けにされたり目の前でチョコレートを食われたりしてひとしきりいぢめられたという。
「あーん?仏教徒なんでしょ?キリスト関係ないんでしょ?日本の商業主義に流されないんでしょ?」
「うーわーっ!俺が悪かったぁ!」


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