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ましろとまくら そにょ8

※ 注意
  この作品に登場するまくらおよびましろは、Leaf(アクアプラス.co)の作品『まじかるアンティーク』に登場するかも知れないキャラクターであり、オリジナルではありません。
  あしからず。まだ出ていない方も、まくらは探さないでください(^^ゞ

    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 時々まくらはとんでもないことを口にする。
 習いたての日本語が奇妙なのかも知れないが。
 最近になってそれも減ってきたのだが、実はそのぐらいが一番やばいというのをご存じだろうか。
「ねーねー…」
 猫のように声を上げて、まくらはきょろきょろと頭を巡らせた。
 彼女は大抵の場合、新聞やら本やらを読んでいる時には周囲の状況が見えていない。
 気がつくと一人部屋の真ん中で、床に広げた新聞とにらめっこしてたりする。
 そして、読めない字があったりすると、今のように鳴くのだ。
 でも今日は視界に誰もいない。

  きょときょと

 ちょっと挙動不審になってみても、誰もつっこんでくれない。
「うー…」
 まくらは新聞をつまみ上げるとそのまま誰かを捜しに出ることにした。
 取りあえず居間の隣には誰もいない。
 台所、にはいるはずもない。
 店先に出ても誰もいない。
「…うーん」
 そう言えば誰かが先刻呼んでいたような気がする。
 呼んでいなかったような気もする。
 どうしようか考えあぐねていると、入り口付近に人影が見えた。
「あ、いらっしゃいませっ」
 取りあえず新聞をそこに投げ捨てて、彼女は店の方へと駆けだした。


「ちゃんと留守番してるかなぁ」
 リアンと健太郎は丁度買い物に出かけていた。
 まくらが丁度新聞を読んでいたので、声をかけては出てきたのだが。
「大丈夫でしょう。ましろさんは何というか判りませんけれども」
 実際ましろの妹に対する行動は常軌を逸したものがある事もある。
「ま、いい勉強になるな」
 どっちも、と言う意味だが、とは口に出さなかったが。
 五月雨堂の入り口をくぐると、しょぼんとしたまくらがカウンターにいた。
「ただいま。お土産買ってきたよ」
 彼が声をかけても、浮かない表情を浮かべる。
「どうしたの?」
 リアンも心配そうに彼女の顔を覗き込む。
「うん…」
 大きな目を伏せて黙り込んでしまう。
 どうやら何かあったらしい。
 こんな日に限ってスフィーとましろは二人で出掛けていて、店にいたのは彼女だけ。
 思わずリアンと顔を見合わせる。
「…先刻、長瀬さんが来て」
 ぼそぼそと。
「…役立たずだって、慰み者に」
「なんだってぇっっっっ!」
 健太郎が声を出すより先に、真後ろから叫び声が上がった。
「どこだっっっ!そいつはどこだぁっっ」
 やばい、と思った健太郎が止めるより早く、ましろが修羅の表情で店を飛び出していった。
「どこじゃぁっっ!うちの妹を手込めにしたのはっ」
「待て、待てってましろっっ」
 止める間もなく、彼女は長瀬源之助の営業する店に吶喊していた。
「◇※!♪□●★△〒◎#%!」
 意味不明の叫び声を上げるましろを、なんとか直前で羽交い締めにして止める。
「待てって言ってるだろ、ましろ、正気に戻れっ」
「な、何ごとかね、一体」
「いや、実は…」

 数分後、顔を真っ赤にして頭を下げるましろの姿と、応接用の茶器を広げる長瀬の姿があった。
「はっはっは、そりゃ誰だって怒り狂うでしょう」
「いや、申し訳ない、早合点をして」
 長瀬は必死に頭を下げるましろを、目を細めて見つめる。
「うちのまくらがご迷惑をおかけしたというのに、それを」
「っはははは、だから、もういいんですよ」
 そう言ってお茶をつぎながら、彼も自分のカップに手をつける。
「しかし、『役不足』を『役立たず』、『慰めた』を『慰み者にした』じゃ酷い違いですよ」
 第一、言葉は無茶苦茶だって。
 ちょうど彼らが帰る直前、長瀬は五月雨堂に顔を出したそうだ。
「元気良く挨拶してくれてね。初めはましろさんだと思ったんですが」
 健太郎の言葉に笑いながら、彼は言葉を継いだ。
「あれがご自慢の妹だったとは」
 まくらは入ってきたお客が長瀬だったのでおもわず愚痴ったのだ。
 『誰もいないの。もしかしてみんないなくなったのかも知れない』と。

「…留守番、ですか」
「おるすばん?…まくら、連れて行ってもらえなかったの…」
 あんまりしょぼくれるので、思わず
「そんなに気を落とさないで。あなたには留守番など役不足ですよ」

 とまぁ、慰めてあげたそうなのだ。
「長瀬さん。それは難しすぎますよ」
 いやぁ、と笑って彼は一口カップを傾けた。
 そして思い出したように眉を顰めると、二人を見比べるようにして言った。
「健太郎くん、ましろさん。…あなた方には難しい話ですが、大事な話があります」
 彼は真剣な顔をして僅かに身を乗り出すようにすると意外な事を話し始めた。
「話というのは、あなたと、まくらさんのことなんです」


 五月雨堂ではリアンが心配そうな顔でまくらと話をしていた。
「な、長瀬さんが?」
 こくり。
「…まくら、役立たず?」
 ぐす、とリアンをぐずりながら見返す。
「ううん、そんなことないですよ、まくらさんが役立たずなんて誰が…」
 んしょ、んしょと椅子を運ぶスフィー。
「でもいっしょに連れて行ってくれなかった」
 リアンはむ、と難しい顔をして落ち込むまくらを見つめる。
「大丈夫大丈夫。留守番よりも役に立たないから連れて行くことだってあるんだよ♪」
 椅子を使って、リアンの横からひょこっと顔を出すスフィー。
 先刻ましろと一緒に帰ってきたのだ。
 リアンとまくらが、一斉にスフィーの方を振り向く。
「…たとえば」
「うん、たとえば荷物持ちにだけにしかならないから、ショッピングに連れて行くとか♪」

  がーん

「…それって、留守番もできないってこと?」
「うんうん、よーするにそーいう事♪留守任せてたら、とんでもないから」

  ががーん

 あんまり嬉しそうに言うので、リアンが絶望的な程に落ち込んで、カウンターの向こう側でのの字を書き始める。
「ちょ、ちょっと、リアン?」
「いーんです、どうせ私なんか役立たずです…」
「ちょ、ちょっとまってよ、リアン、あんたが何で落ち込むのよー!」
 ぐすぐすと言いながら、彼女はスフィーが近づくと顔を反対側に回していく。
「ちょっとリアンっ」
 それを必死になって追うスフィー。
 結局ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人の様子に、まくらは目を丸くしてぱちくりぱちくりする。
 そして、涙でうっすらと潤んだ瞳で笑みを浮かべた。


「とんでもない…事だな」
 言っている内容の半分は理解できなかったが、その『結論』はましろの頭の中に刻まれた。
 健太郎は、一緒にスフィーあたりが来てくれているとよかったとも思った。
「私達がここにいるから、歪みができているというのか」
「…そういう…ことになるのかな」

  「あまり良くないことだけども」

 長瀬の言葉が脳裏に反芻される。

  「この世の中のバランスを保つのは難しいんだ」

 健太郎は肩を落としているましろに顔を向けるが、かける言葉がない。
「今考えても仕方ないよ、多分」
「でも私は」
 顔を上げる真剣なましろの頭を横抱きに抱えて髪の毛をくしゃくしゃと撫でる。
「だーからって出ていくなよ、うちには二人も魔法使いがいるんだし、そっちのことは任せておけばいいって」
「…判った、感謝する」
 健太郎は彼女を解放すると、にへっと気恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「それと、まくらには黙っておかないとな。…どんな反応するか判ったもんじゃないから」

 二人が五月雨堂に帰り着くと、まだ店の方は騒がしかった。
「だから、『的を射た』質問だっていうの!」
「…的を得た」
「当を得たじゃないですか?」
 まくらとスフィーとリアンの日本語講座も、もうちょっと考えなければいけないのかも知れない。


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