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ましろとまくら そにょ6


 正月を無事に迎えて。
 丁度大晦日の夜から降り始めた雪は本格的に降り積もり、朝起きると一面の銀世界だった。
 …ら、綺麗なのだが。
「わーい、雪だ雪!」
 スフィーの声で目が覚めた健太郎は彼女の頭越しに外を見つめた。
「うん、これはかなり積もったな」
 大抵の場合、雪かきやったり車が通ったりするのでアスファルトがむき出しになる。
 その際に泥を巻き上げるからだろう、彼の目に映るのはまだらの雪だまりが黒くくすんでいる道路だけだった。
 はっきり言って、汚らしい。
「…あんまり綺麗じゃないね」
「期待するな」
 きっと顔を彼に向けるスフィー。
「けっ!おとなぶりやがって!もうあんたのひとみはこどものころのかがやきをうしなってしまいました!」
「…変な漫画でも読んだのか?」
 棒読みで読み上げる彼女に一応のつっこみを入れておいて、もう一度目を外に向ける。
「まぁ、場所を変えればもっと綺麗なとこもあるはずだけどね」
 二人が話していると、後ろから奇妙な歌声が聞こえてきた。

 ねーこはよろこびにわまるくなる
 いーぬはこたつでかけまわる♪

 なんだそりゃ?

  どたばたどたばたどたばたどたばた

 振り向くよりはやく床をどたどたと鳴らす音が聞こえた。
 そこにはまくらがいた。
 この間バーゲンで買った5000yenの『まくら用』こたつを背負って。
「…なにやってるの」
「いぬ」

  どたばたどたばた

「頼むから、間違った歌を覚えるのはやめてくれ」

  ぴた

「…間違ってるの?」
『大きな間違いじゃ!』
 スフィーと健太郎の声は見事にはもっていた。



「ともかく」
 健太郎、スフィー、リアン、ましろが一つのこたつで顔をつきあわせ、専用のこたつを背負ったまくらがじっと見つめている。
 …かめ?
 どちらかというと猫に見える。
「綺麗な雪でも見に行こう」
「賛成!」
 したのはリアンとスフィー。何故かましろは躊躇するように黙り込んで、まくらは頭の上に??を飛ばしている。
「ましろ?」
 彼女は困った顔を健太郎に向ける。
「…本当に行くのか?」
「どうしたんですか、ましろさん?」
 ましろは言いにくそうに視線を泳がせると、やがて顔をまくらに向ける。
 彼女は気がついて、自分の姉に目を向ける。
「まくら、放っておくとすぐどこかに飛び出していくから」
「五月蠅い。人を鉄砲玉みたいにいわないで」
 ぷっと頬を膨らませて口を尖らせる。
 しかし良く知ってるな、そんな言葉。
「…実際行方不明だった癖に」
 う、と言葉に詰まって顔を赤くして、上目で――こたつに潜り込んでるから嫌でも上目遣いになる――彼女を見る。
「いぢわる」
「そんなに凄いのか?」
 健太郎はましろに不思議そうに聞いた。
 どうもまくらの雰囲気を見る限り、ましろと接する時の態度と雰囲気が違う気がしてならない。
――気に入られてるのかな?
 そうでない可能性もある。
「凄いどころか。…この間の海水浴でもそうだっただろう?」
 うん。そんな気もするが、『面白いことに』何故かそんな記憶は定かではない。
 海から帰る前に病院で目が覚めた気がするのだ。
「そ、そ、そーよね。あの時も結構大変だったよ」
「ふーん…スフィー、何を慌てているんだ?」
 ジト目でスフィーを睨む健太郎。等のスフィーはあたふたあたふたするものの、何もできない。
「まぁいいか。じゃぁ誰かは必ずまくらを見てるってことでどうかな?」
「い、いや、それでは皆に迷惑が掛かってしまうから」
 彼女が渋る理由に、リアンはくすっと笑う。
「そんなことですか。そんな、気にしなくて良いですよ?」
 リアンと並んでスフィーも微笑んでいる。
「まぁそうだな。今更そのぐらい気にならないって」
 おい健太郎、それは決してフォローになってないぞ。
「…いいのか?」
 にこにこ。
「…判った。実はわたしも雪が大好きで、綺麗な場所があるなら行ってみたいんだ」
「んーん、大丈夫大丈夫。まくらちゃんはけんたろが一切合切見てくれるから」
 うんうんと頷いていた健太郎が、はっとしてスフィーを睨む。
「な、何?」
「ねーけんたろ?」
「お、おひっ」
 思わず声を裏返しても、状況は変わらない。
 にこにこがいつのまにやらにやにやに変わって、ましろ達に見えないように彼に笑いかける。
(ここで断ったら男じゃないね♪)
 目がそう言っている。
――むむむ…む…このやろう…
「…ま、任せとけって」
 言いながら、彼は頬が引きつっていた。

「はははっ、こんなところがあるんだ」
 町はずれまで歩いたところで、真っ白い広場があった。
 まだ誰も踏み込んでない綺麗な白い場所。
 こんな寒い日には、公園なんかには誰も来ないのだろうか。
「わ、冷たい!」
 視界の端できゃいきゃい遊んでいるスフィーとリアン。
 側では早速まくらが地面を掘って遊んでいる。
「どうしたんだ?」
 それなのに、ましろは彼の側にいてまくらの様子を見つめている。
「…先刻は、済まなかった」
 横顔は幼くて儚げで、綺麗に整っている。
 その顔がついっと自分の方を向く。
「わたしはまくらの姉なのだ。わたしがみてやれば何の問題もないのにな」
 そう言って笑う。
 健太郎はふむ、とため息を吐くように息をついて彼女の肩をぽんぽんと叩く。
「でもさ、こんどはそのましろを俺達が見ておかなきゃならない」
 ましろは端正な顔を僅かに歪めて首を傾げる。
「じゃ、ないと、ましろ達が消えてしまうかも知れないだろう」
 にっと健太郎が微笑むと、ましろは苦笑する。
「健太郎殿。わたし達は商品なんだぞ」
「いつまで経っても売れようとしないくせに」

  どちゃ

 そのときまくらがずっこけた。
 雪の中に頭をつっこんで。
 見事なまでに大の字に。
「ぷ」
 その様子に吹き出す健太郎。
 そして、聞き覚えのない笑い声が彼の耳に届く。
 ましろが笑っていた。
 ましろが――少なくとも健太郎の前で――初めて笑っていた。
 目の端に涙まで浮かべて。
 口元に手を当てているが、ほとんどそれは用をなさず、相好を崩している。
 でも、心底嬉しそうな、綺麗な笑みだった。
 自分が笑われたと思ったのか、まくらがむすっとむくれて口を尖らせてこちらを向いた。
 頭に雪を載せたまま。
 涙を拭きながら健太郎を見返して、ましろは言った。
「まだわたしは見切りはつけてない、健太郎。まだお世話になるからな」

 その日以来、少し彼女の堅さがとれたような気がした。
「健太郎殿、おかわりだ」
「だからって飯は喰わなくてもいいんじゃないのか(泣)」
 食費は一気に倍になった事を付け加えておこう。


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