冬。
今年は非常に寒い。
クリスマスは雪を期待しても良いぐらいだ。
「…そろそろ…」
だから、健太郎はしまってあったこたつを出すことにした。
こんな店には何故か使えもしない掘り炬燵もあるにはあるんだが、言うまでもなく電気ごたつだ。
それもまだヒーターの部分が出っ張ってる『旧式然』としたものだ。
所々へこんでたり歪んでたりするこの赤いヒーターが、味を出している。
「うむ」
それが健太郎の骨董品に賭ける人生を刺激するのか、買い換えようとは思えないのだ。
ひとしきりヒーターを眺めた後、こたつを組み立て始める。
4本の脚は、そのものがねじになっているのでくるくると回してねじ込む。
9つのグリッドに分かれた本体をひっくり返して、敷き布団の上に置く。
掛け布団をかけて、電源をいれて出来上がり。
ものの数分で組み立て終わると彼は満足して中に入ろうとしたが…
「健太郎」
思いがけないほど近い場所から聞こえた声に驚いてしまう。
「ま、まくらかぁ、驚かすなよ」
気がつけばまくらがぴったりと後ろにくっついていた。
余談だが、彼女は胸がない。
今みたいにリアンのトレーナーに包まれていると、余計そう思える。
「…これは?」
小首を傾げて不思議そうにこたつを見つめる。
どうやらこれも良く知らないもののようだ。
にやそ。
健太郎は彼女の肩をぽんぽんと叩くと、彼女を連れて部屋の外へと連れて出る。
「いいかい?アレは『炬燵』という名前の魔性の生き物なんだよ」
へぇぇ〜と拝聴モードおん!
純真無垢な瞳をくるくると回して健太郎を見つめるまくら。
「過去には掘り炬燵という、床に穴を開けて使うものもあった。…流石に、もうアンティークだけどね」
事実程度の良い物は売り物に出している。
「冬はこの魔性の魅力に勝つことはできないんだ。…証拠を見せよう」
そう言って健太郎は彼女に厚手の上着を着てくるように言った。
数分後。
二人は窓の外から炬燵のある部屋を見ていた。
健太郎がこたつの電源を入れておいた部屋は彼の私室ではない。
それ程もしないうちに、部屋にスフィーが姿を現す。
きょろきょろ、と一度部屋を見回して、目がある一点で止まる。
「ほら、よくみていてごらん」
健太郎の差す指の向こう側、ガラスを隔てた暖かい部屋の中。
スフィーの頬が僅かに緩む。
そして、嬉しそうにこたつに滑り込んだ。
ほこほこ〜と幸せそうな顔で頬をぺたりとくっつけてしまう。
「うーん、スフィーさん凄く幸せそう」
時折みょんみょんと彼女の触覚のような髪が揺れている。
あれは機嫌のいい証拠だ。
「そうだ。この世の誰も、冬の世界の炬燵の魅力には敵わないのだ」
言ってるうちに、リアンが姿を現す。
初めはスフィーに目がいくが。
こちらも嬉しそうにこたつに身体を入れる。
するとスフィーは寝ぼけた顔で身体を起こした。
何を言ってるのか判らないが、姉の様子ににっこりと笑みを浮かべるリアン。
「…健太郎?」
さらに扉が開いて、結花が部屋に入ってくる。
暖かい部屋でも白い湯気をたてる特製ホットケーキ。
「…健太郎、健太郎ってば」
やがて結花もこたつの向こう側に入るとホットケーキを切り分け始める。
「凄く、寂しい」
「うん、俺もそう思っていたところだ」
「けんたろ、脚冷たいよ」
しかめっ面で文句を言うスフィー。
「ええいうるさい」
そう言ってこたつの上のホットケーキをつつく。
「…そもそも悪いのは誰だ」
スフィーとリアン、ましろとまくら、結花、健太郎がこたつで顔をつきあわせている。
気がつくといつもの面々が無理矢理こたつに脚をつっこんでいる。
「誰?そんなのいつもの通り」
ましろの言葉にじろりと鋭い一瞥が飛んでくる。
「…けんたろ、何か釈明は」
「待て、そもそも何が悪いと言うんだ!俺は何もしていない!」
「意義は認めません」
裁判長まくらがにこにこしながら言う。
待て。意味判って言ってるのか?
「被告人宮田健太郎は、魔性の魔物炬燵に魂を売り飛ばした罪で、死刑」
…よっぽど気に入ったのだろう。
その日以来、背中に炬燵を背負ったまくらの姿を時折見かけるようになった。