「何、あれ」
最近の学習能力は素晴らしい。
相変わらず訳の解らない先入観と邪魔な知識を排除するのは大変なのだが。
「ふふーん。良い物に目を付けたな、まくら」
時折こうやって連れ出して街を回ると、奇妙な物を見つけて聞いてくる。
その様子は丁度三歳児のようなものだ。
何にでも興味を持って、知りたがる。
その時まくらが指さしていたのは、きらきらした物が軒先においてある場所。
入り口は広い目で、ガラス張りなので中がよく見える。
最近のゲーセンというのはゲーセンではなく『アミューズメント』なんちゃらである。
決してあの過去の亡霊ではない。
「そうか、まだゲーセンは知らないのか」
こくこく
最近覚えたらしいうなずき方で彼女が答える。
健太郎はものすごく嬉しそうな顔をして笑うと、まくらの背中を叩いた。
「よし。…まくらは西部劇って見たことがあるか?」
ぶんぶん
「んじゃ、借りて帰るか」
からん
液体の中の氷が音を立てる。
薄暗く、窓から差し込む光が部屋の中の紫煙を浮かび上がらせる。
ざわめきと、歓声。
カードゲームに興じる男達。
ぎぎぃ
入り口の扉が嫌な音を立てて軋む。
「ますたー、てきーらを」
「…テキーラはありませんよ」
「…ばーぼん」
「飲み物はそこの自販機でお願いします。両替以外は承ってません」
「けんたろー!どこだぁ!」
泣きながら帰ってきたまくらに事情を聞いたましろが、口から火を噴いていた。
結花に首根っこ引掴まれて帰ってくるまで、ましろの怒りは収まらなかった。
「ちょ、ちょっとまってくれよ」
怒モード入った女の子二人に睨まれて、おたおたする健太郎。
さらにその向こう側ではまくらが泣いている。
「確かに西部劇を見せてゲームセンターの説明はしたさ」
15年程前。まだゲームセンターが街の片隅にあった頃。
そこは犯罪の温床であり街の暗部であった。
「西部劇の酒場の雰囲気そのままだからさ、その説明が一番いいかなぁって」
『んなもん今のげーせんぢゃねーだろーがっっ』
その日、五月雨堂は嵐が吹き荒れた。
約一名、死者が出たという。
<おしまい>