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ましろとまくら そにょ13


※ 注意
  この作品に登場するまくらおよびましろは、Leaf(アクアプラス.co)の作品『まじかるアンティーク』に
 登場するかも知れないキャラクターであり、オリジナルではありません。
  あしからず。まだ出ていない方も、まくらは探さないでください(^^ゞ

    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 前回までのあらすじ
 バイトを始めるましろと、正式に仕事を始めたいというまくら。

「只今帰った」
 お昼過ぎ、いつも通りのましろの声が聞こえた。
 時間を合わせておいたので、丁度お昼時。
 ちなみに今日は健太郎が焼きそばを作った。
「おかえりー」
 ぱたぱたとまくらが玄関まで迎えに来る。
「うむ、ただいま。…まくら」
 ちょん、と胸を張るようにして首を傾げる。
「…そのかっこうはなんだ」
 ひらひらのついた、紺色のメイドさんドレスにふりふりエプロンな格好。
 有り体に言えばそれは、魔法を使って仕事をする時のスフィーの格好。
「へっへ〜。どう?」
 にあう、までは言えなかった。
 ましろがあまりに奇妙な表情を浮かべていて、それを不思議に思ってしまったからだ。
 不思議に。
「…にあわない?」
 むぅ、と眉を顰めてましろを見上げた。
 何とか言うと、ましろは異常なモノを見る目をしていた。
「何て格好をしてるんだ」
 呆れた声で、どっちかというと哀れみの目を彼女に向ける。
「…さみだれどおの店員さんの格好だもん…」
 んだから、くすんくすんと廊下の隅でいじけ始める。
 ましろは難しい顔をして、困ったようにふらふらと視線を迷わせた。
「おかえ…あれ、…ましろ、喧嘩でもしたのか」
 僅かに敵意の混じった目がましろから向けられるのを覚えて、健太郎も眉を顰めた。

「いや、アレはスフィーのだな…あんなもの正規の店員の格好にしてるわけないだろう」
「あんなものとはなによあんなものとは!」
 いやスフィー。キミの言葉もよーく判る気がするが。
 だれがどーみたってあんなものだぞ。
「まくらだって凄くにあってるじゃない」
「わたしは、あんまりどうかと思うが」
「じゃぁましろちゃん、どんなバイトやってるのぉ」
 ぶすーっとむくれた表情で睨み付けるようにして言う。
「私は、駅前にある旅館で女中さんのバイトだ」
 割烹着エプロン?それとも着物?
 どちらにせよましろの雰囲気ならおかしくはないが。
「…」
 その場にいた全員の目がましろに注がれる。
「りょうり、できたっけ?」
 ぶんぶん。
「…接客業ですよね」
「そのとおりだが」
「そのしゃべりかたでぇ?」
「馬鹿にするな、これでも慣れた物だぞ」
 あんまり慣れてるようでもないのだが。
「それはその、いきなりお客のフルネームを呼んで驚かしたりする訳じゃないだろうな」
「こら健太郎殿、そんな古い話は蒸し返さないでくれ」
「…だったらやってみせてよ」
 口を尖らせたまんまで、ふてくされたようにまくらは彼女を睨んでいる。
「よし」
 ましろはにやりと笑みを浮かべた。


 着物を着て、畳の上で正座。
「ようこそいらっしゃいました」
 一礼して、よどみない動作で立ちあがる。
「さぁこちらへどうぞ。まず宿帳の御記帳をお願いします。……はい、はい結構です。御予約の宮田様ですね、椿の間で御座います」
 彼女はしずしずと先導して、扉を開くと鍵を手渡す。
「お部屋の鍵はこちらになります。貴重品の金庫の鍵と一緒になってますので、お出かけの際にはフロントへお預け下さい。ではごゆっくり」
 ほぉぉ、という感心した声が上がる。
 意外と言えば意外なのだが、おっとりした彼女の雰囲気と和服のせいだろうが、非常に落ち着く。
 彼女にとってはともかく、異常に適職に違いない。ここまではまり役(笑)もないんじゃないか?
「凄い、凄いですましろさん!本物みたいです」
 いやだから本物なんだって。
「うわぁ、いやここまで凄いとは思わなかった。…昔、こう言うことしたことあるの?」
「そういう訳ではないのだが。…?」
 わいわいとましろを取り囲む中で、一人だけ輪から外れていた。
 まくらだ。
 彼女は何故かましろの周りで騒いでいる連中とは離れて、妙に一人になっている。
 健太郎の焼きそばの味は、ましろはほとんど判らなかった。

「まくら」
 昼食を終えて、ましろはまくらを呼んで自分たちの部屋へと引っ込んだ。
 健太郎は、彼女が帰ってきた時の様子を知っているので、それとなく間を空けてくれた。
 だから、昼間っからだが、寝所に二人っきりである――と言っても、姉妹でだが。
「…何」
 まくらは、いつもの元気さもなく呟いた。
「今更まくらに言うことなんかあるの」
「今更?」
 ましろは――それこそ意外そうに、馬鹿にしたように――声を裏返して叫んだ。
 びく、とまくらは顔を引きつらせて下がる。
「今更なんて言葉を、使うなんて思わなかったぞ、まくら」
 ましろの表情は険しい。
 急に語調が厳しくなったから何を言われるのかと怯えた表情を見せている。
「まくら、わたしが何故アルバイトを始めたのか判ってるのか?」
 睨み付ける――妹だから判る、彼女の怒りが――ましろに、こくこくと何度も頷く。
「いや、判っていない。…まくら、どれだけ迷惑を掛けてるのか判るか?」
 そっと肩を抱くように、急に側に近づかれたので戸惑う表情を見せるまくら。
 うーん、なんかちょっと男らしいぞ、ましろ。
「やろうと思えば皿のままで存在し続けることすらできるし、時間さえずらせば食事だって要らないんだ」
 だったらそうしろよ(`へ´)
 健太郎が聞いたらまず間違いなくそう叫ぶだろう。
「…うん」
「それでも…判るな」
 とくん。
 言葉より何より、互いの心音がそれを如実に感じさせてくれる。
 姉妹でも、こうして居られる時間というのは――多分、それは制作者の思いなのかも知れないが――大切に感じられる。
「うん」
 きゅ、と服を握りしめるのが判る。
 ましろは彼女の頭を撫でる。
「お前はわたしの妹だ。わたしが――責任を負う。これ以上心配を掛けさせるな」
 可愛い妹なのに。
「…でもそれじゃ、まくらは?」
 ぐいっとましろから身体を離すように力を込めて、姉を見上げた。
「それこそ『今更』よ、まくらにとっては。まくらは…まくらはしたいことできないの?」
 じっと、真剣にましろを見つめるまくら。
「まくらだって役に立ちたい。まくらだって何か仕事をして、足手まといじゃないって言われてみたい」
 これは――生意気だって判っていたましろですら、意外な反応だった。
 大抵自分の意見をねじ曲げて――ましろにはそう感じられた――でも、従おうとしてくれたのに。
 だから、ましろは唖然とした表情を浮かべて、自分の妹を見つめていた。
「…だめ、かな」
 多分そんな表情の姉を見たことがないからだろう、まくらは視線を逸らせた。
 僅かに頬が紅い。
「――そう、か。いや…そうだな、うん、そういうこともある」
 ましろの表情は、今までになかったぐらい優しい。
 見たことがないくらいに優しい。
 だからまくらは逆に驚いて、目を丸くした。
「ましろちゃん、それ反応変だよ。いつもなら怒るとこ」
「…そんな風に自分の姉のことを思っていたのか、この馬鹿妹が!」
 ひゃっと叫び声を上げて頭を抱え込む。
 …が、来るはずの衝撃がいつまで経っても来ないので頭を上げて――ぽかり。
 ましろのにぎりこぶしが、まくらの額に乗っかった。
「…それで?五月雨堂の仕事はどんな感じなんだ?」
 うん、とまくらは嬉しそうに笑って答えた。
 決して脚色やフィクションじゃない、自分の一こま。
 それらをひとつひとつ、大切に言葉に代えて伝えていく。
 言葉にする時点で違う物になることだってある。でも、姉妹の間ならそれも僅かな物。
 ただましろは、説明するまくらを見つめながら一生懸命な自分の妹の事を考えていた。

「いらっしゃいませ〜」
 それで有名になったと、本人に報せたくない。
 ましろはそう言っていた。
 だから、出来る限りの努力をしている。
 簡単に言えば、『無駄な』努力だ。
 まくらの御陰ではなくて、皆の御陰で五月雨堂が繁盛している状況にしてやろうというのが健太郎の目論見だ。
 とはいえ――記憶力の良いまくら相手には難しい話だ。
 どこでどうやったのかまでは聞かないが、彼女は五月雨堂はおろか、日本のアンティークについて頭に入れてしまっていた。
 ともすれば、知識で彼女に敵うことはなかったぐらいだ。
「休憩にするから、お茶でも煎れてくれ」
 そう健太郎が音を上げない限り、仕事を続ける物だから。
 在庫整理の手を止めて、彼女はコーヒーを持ってくる。
「ありがとう。…でも、仕事をしてて思わないのか?『何でこんなコトしてるんだろう』って」
 その健太郎の言葉に、まくらは笑って応えた。
「ううん。そんなことを考えてる暇があったら、少しでもこの子達の事を見てたいもん」

 人々の想いはそれぞれ複雑な物がある。
 まくら達だって、生まれてから様々な想いに触れてきたに違いない。
 でもそれらは、彼女達にとってきっと嫌な物ではなくて大切な物。
「またいらしてくださいね〜」
 裏を返せば、人間が好きなんだろうと――今の彼女ののんびりした笑顔も、きっと。
 


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