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ましろとまくら そにょ1


 五月雨堂。
 街のこぢんまりした骨董屋。
 最近、ここに出没する少女が有名になっている。
 何故出没なのかというと、普段見かけないからでもあるのだが。
 誰も店に入っていくところと、店から出ていくところを見かけないからなのだ。
 そんな五月雨堂でも、結局は骨董品を取り扱っているせいかあまり繁盛している風ではない。
 最も毎日超満員な骨董屋があっても困ると思うが。
「ふぅ。今日も千鳥が鳴いてるよ〜」
 人気のない、でもよく手入れの行き届いた店内に黄色い声が響く。
 一応看板娘の(でも噂の的ではないが)スフィーだ。
 イスの上で両足をぶらぶらさせて、膝の上で両肘をつけて頬杖をしながら店内を見回している。
「馬鹿、閑古鳥だろうが」
 宮田健太郎。
 こちらは不機嫌そうに溜息をついて彼女の後ろに立っている。
 彼に気がついて、器用に身体をくるんと回す。
「五月蠅い。とりには違いないじゃない」
 ぷっと頬を膨らませて両手を突っ張る。
 どうも仕草は子供子供しすぎていて、年上には見えないだろう。
 いや、身体も子供だが。
「大きく違うぞ」
 彼はもう一度大きく溜息を吐くと、イスに腰掛ける。
 確かにそれ程繁盛するような商売でもないし、繁盛して欲しい訳でもない。
 でもまぁ、お客が一人も来ないのも考え物である。
「あ〜」
「何だ、やっぱり暇そうにしていたか」
 大抵こういう場合は誰か客が来る物だ。
 この場合で言う客とは、お客さんではなくて自分に尋ねてくる人のことだ。
「けんたろ、お客さんだよ〜」
 みどりさんとか、長瀬さんとか。
「ね。…(ごにょごにょ)…」
「ふむ…」
 ホットケーキを持って結花が現れてスフィーをぐりぐりしたり。
 …今日は確か定休日じゃないから来ないか。

  つんつん

「健太郎殿」
「うわっ」
 突然頬をつつく感触と、思わぬ大きな声に健太郎は弾けるように立ち上がった。
「人を化け物みたいに驚くな」
 溜息をついて腰に手を当てる美少女。
 彼女が噂の中心にいる人物、因幡ましろだ。
――化け物みたいなものじゃないか
 とは、健太郎の口の中だけの言葉。
「けんたろ、声かけても返事してくんないんだもん」
 今の彼の様子を見てけらけら笑う。
「お前か」
「待て待て。確かに彼女の差し金だが、乗ったのは私だ。スフィー殿を怒らないでくれ」
 なにもそれでましろが謝らなくても。
 思わずそうもらしそうになって、ふと彼女の後ろに誰かがいることに気がついた。
 ましろそっくりな雰囲気の、透き通るような白さのましろより健康的な肌の色。
 そして、その代わり艶やかな黒い髪が印象的だ。
「…どなた?」
「因幡まくらと申します」
 ぺこりと頭を下げると、まるで墨を流すようにその黒い髪が揺れた。
 のんびりした表情のましろより、どちらかというとしっかり者という印象がある。
「てことは」
「そう、妹だ」
 微笑むましろ。
 離ればなれになっていた、仲のいい妹だ。
「初顔合わせになるかな」
「なるかなって、初めてですよ。はじめまして、宮田健太郎です」
 そう言ってぺこりと頭を下げると、まくらはにっこり笑って小首を傾げる。
 その仕草は非常に可愛らしい。
 文字通り人形みたいだ。
「うっくーっっっ、どっかのピンク色魔法少女とはえらいちがいだ」
「…って、本人の隣で遠回しに言わないの」
 ジト目で睨んでもいっこうに気にしない。
 ほとんどではなく完璧に忘れられている。
――うーっ
 地団駄ふんでも、まぁいつものことだから。
「こらこら、そうやっていぢめるものではないぞ」
 彼女は腰に手を当てて、完全にお姉さん気取りである。
「何を騒いでるんですか?」
 店の奥からリアンが顔を出した。
 ましろに気がついて微笑むが、やっぱりその後ろに気がついてにこにこ顔のままはてなまーくをとばす。
「…妹さん?」
「ああ、まくらだ」
 ましろの返答にもう一度頭を下げるまくら。
 リアンも頭を下げると、彼女の側まで近寄って言う。
「でも黒ウサギさんですよね。…真っ黒じゃなくてよかった」
 あははと笑う健太郎とスフィーだが、まくらは笑っていなかった。
 そして、口元だけを僅かに歪めて、こう呟いた。
「皮をはいだら黒ウサギも白ウサギも一緒ですよ」

 その日以来、まくらが現れても滅多な事を呟く者はいなかったという。


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