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腐り姫


 「つい、甘えちゃうんだよ…」
 全てが腐り落ちていく。
 赤く、紅く、朱く。
 それはもう止めどもなく――赤。
 全てが雪のように紅く砕けて散って降り積もっていく。
 まるで罪の色のように。
「すこし……怖いわ……」
 砕けるのは命。
 降り積もるのは諦めの色。
 そして、腐り落ちるのは――そう、満たされた心。
「五樹……さん……」
 耐えきれなくて砕けてしまう。
 それは――結局、何なんだろうか。
 甘い、甘い、甘い滅びの臭い。
 それは一切の何にでもなく、ただほんの一瞬の気の緩み――緊張が解けた瞬間。
 何かを手に入れた、とその気を緩めた瞬間。
 ざくり、と。
 最初にただ僅かに傷を入れられた部分から、砕けてしまう。
 もう、止めどもなく内側から腐れ落ちる――自らが、存在が。
 もう二度と元に戻れない――存在を失ってしまう。
 それは人間――忘れるべき存在になるあかし。

 何故そんな事になってしまうのか――そんなこと、思い出せることはない。

 でも、知らなければならない。
 砕け散る様を。
 存在を失う――その意味を。
 自らが存在していた意味を重ね合わせて自ら失った物を補完し、そして――その代わり、自らの存在を失う。
 存在の肩代わり――そんな風に例えても構わない。
 だからこそ、それは永遠の救済になるのだから。
 もう二度と救いを待つことのない――無へと帰すのだから。

  あたし……すこしだって、怖くは……ないわ……

 存在を否定するより他、その死を迎えることのできないモノにとって。
 それは与えられるべきモノではなく――

  五樹……お前に出逢うためだった……

 腐れ落ちる存在――存在が腐れ落ちるのか。
 内側から満たされて消えゆくのか。
 無限に生き無限に与え続けなければならないのか。
 いや。

  まだ、終わりじゃないんだ

 腐れ落ちる――それは、存在だけではないはずだ。
 腐るというのは、行きすぎた証。
 世界から存在を消す手段。
 なの、であれば。

  けれど、道はまだ一つだけ……あるよ。

 腐れ落ちていくのを見続けるべきなのはまだ。
 だからこそ……


  イツキ……


  イツキ……私は、お前に、出会えたか?
 


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