ギルティギアX



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このSSはギルティギアXの『ストーリーのない』SSです。
アクションシーンを再現するためだけに作りました。
そのつもりで、何もつっこまないでください。
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 雨が伝う。
 ロンドン郊外の、ある人通りの少ない場所。
 そこで二人の男が睨み合っていた。
「へん、久々に会ったってのに、つれないんじゃねーか?」
 頭にバンダナを巻いた、いかにも軽そうな男は苛立ちを隠せないように言う。
 その手には、じゃらりと兇悪な音を立てる鎌――鎖鎌が握られている。
 向かう男は、こちらは以上とも言える程筋肉質で、その――ディフォルメされたような体型には、恐ろしい力を隠している。
 右手には巨大な鉈のような剣を握り締めている。
 赤い補強剤と、重さを軽減するためだろうか、血抜き溝代わりに穴が開けられた切っ先。
 この巨大な鉈を振り回す膂力を考えれば彼が何者なのかは言うまでもない。

 ――罪咎の機械――

「…五月蠅ぇ、邪魔だったんだよ」
 とんとん、と肩を叩いていた剣をすっと降ろして、首をこきこき鳴らすと大きく息を吐いた。
「闘るぜ…覚悟を決めな」

 アクセル=ロウの後ろには一人の女性がいる。
 先刻まで奴と――大剣を構えた『ソル=バッドガイ』と闘り合っていた女性、ミリア=レイジだ。
 ただ今は意気消沈した面持ちで、闘いを見据えるしかない。
 とてもアクセルの鎌如きで倒せるとは、思えないが。


  干渉する金属音

 アクセルは自分の身体が後ろに引きずられたのかと思った。
 ソルの一撃が思わぬ距離を襲いかかったからだ。
――くっ
 身体が反応して、鎖で何とかそれを防いだというのに、一瞬右手が痺れてしまう。
「なろっ」

  しゃっ

  とん

 空を裂く音がソルの耳に届く前に、彼は僅かに跳躍した。
 彼の真下を何かが抜けていく音と同時に、彼は地面に脚を伸ばし、一歩前進する。
 笑っていた。
 アクセルの前で、鎌が手元にない今、ソルは獣のような笑みを浮かべていた。
 残忍な右腕が、握られた絶対の力を振り下ろす。

  ぎいん

「はっ、なっちゃいないね」
 アクセルの左手に、いつの間にか鎌が現れていた。
 その背でソルの一撃を受け流しながら、右手に鎌が戻ってくる。
 刃越しに二人は睨み合っている。
「女の子には優しく。…そう習わなかったか」
「生憎と、な」

 アクセルは身体を一歩横に流す。

  ごっ

 一瞬目がくらんだ。
 それは命取りとも言えるタイミングで。
 耳に届くのは轟音と――水蒸気の立てる音。

「…やった」
 ミリアも、思わず嘆息した。
 今のタイミングでソルが一撃しないはずがない。
 人外の超常の力で一気に炎が噴出し――しかしそれはアクセルの胸元を過ぎただけだった。

  頬に浮かぶ、笑み

 鎖の音と共にソルの身体が大きく宙を舞う。
「へっ…甘いんだよっっ」
 すぐ側にあった街灯を通し、ソルはまるで絞首刑の罪人のように吊り上げられてしまう。
 ソルの絶対の間合いでのヴォルカニックヴァイパーは、ほんの僅かに早く下がったアクセルには届かなかったのだ。
「ご自慢の『炎』も、当たらなければ意味がないよな」

  じゃらららら

 ソルの身体は決して軽くはない。
 だが、鞭のように鎖をしならせて彼の身体が大きくバウンドする。
「ぬおっ」
 街灯から鎖が外れ――ソルの身体が鎖に絡み取られたまま叩きつけられる。
 アクセルが鎖を震うと、彼の身体は転がって鎌も外れる。
 鎌は直接刺さったわけではなかったが、今の一撃は充分な傷を与えていた。
 ロンドンの冷たい石畳を嫌うように身体を起こして、ソルはぎりっと歯ぎしりする。
「アクセル…」
 憤怒の表情を浮かべ、彼は一気に間合いを詰める。
「るせぇええええっっ」

  右からの鎌

「ふん」

  金属音
  そしてふたたび――目映いばかりの光。

  爆音。

 間合いを詰めてきたソルを迎え撃つつもりが、アクセルの伸ばした鎌は、返した鉈の柄で弾かれてしまう。
 そして袈裟懸けに一撃。
 返す刀が焔に包まれた時、アクセルは血飛沫を上げながら自分の死を覚悟した。

 ヴォルカニックヴァイパー。
 ソルが地面を蹴る際に、まるでロケットのように大きく炎を吹き出して行く様から名付けられた技。
 技とは言い難い。
 それは、ソルに与えられた『兵器』だ。
 人工に与えられた、彼自身――兵器なのだから。

 高く舞い上がったアクセルを見ながら、今度こそ終わったとミリアは思った。
 ソルが手加減を――するはずがないから。

 アクセルは自分の背中の感覚が無くなっていることに、肺の空気が押し出されるまで気づかなかった。
 気がつくとロンドン郊外の冷たい雨に晒された、石畳にそのまま横たわっていた。
 力が入らない。
 彼の耳に、水を叩く足音が聞こえる。
「…ん、なんだ、もう終いか」
 ぴちゃ、と足音が止まる。
 そして、再びその音が遠ざかっていく。
「さっさと失せな、そこの女も、な」
「まっ…」
 ミリアは声を上げようとして、歯ぎしりした。
――次に立ち上がったら、容赦しない
 彼の言葉を思い出して、再び目を伏せた。
「手加減してくれた、なんて思いたくないけどね」
 降り続く雨の向こう側に消えていくソルに背を向けて、アクセルを助けるために彼女は駆け寄っていった。


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